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『映画に溺れて』第297回 テリー・ギリアムのドン・キホーテ

第297回 テリー・ギリアムドン・キホーテ

令和元年十二月(2019)
渋谷 ショウゲート試写室


 何度も何度も挫折を繰り返し、ようやく完成した。テリー・ギリアムの見果てぬ夢『ドン・キホーテを殺した男』が。
 スペインで『ドン・キホーテ』を撮影中の若手監督トビー。トラブル続きで撮影は進まない。この場面はテリー・ギリアム自身の実体験であろう。
 スタッフとレストランで食事中、店に入ってきた物売りの男。その籠の中に一枚のDVDを見つけたトビー。十年前、学生時代にスペインで撮った自主映画『ドン・キホーテを殺した男』の海賊版ではないか。プロの俳優を使わず、地元の村人を出演させたのだ。思い出にふけり、トビーは撮影の合間にさほど遠くない村を訪れる。そして、ドン・キホーテに出会うのだ。
 その老人は十年前にトビーの自主映画でドン・キホーテ役を振り当てられた村の靴屋だった。アロンソ・キハーノがドン・キホーテになったごとく、老いた靴屋は十年前の撮影以来、ずっとドン・キホーテのままの人生を送っていた。彼はトビーを見てサンチョと呼ぶ。ある事件に巻き込まれ、馬上の老人とともにロバに乗って荒野をさまようトビー。
 十年前、ダルシネア役だった酒場の娘は、その自主映画出演がきっかけで女優に憧れ、都会に出て、芸能界の裏街道を渡り歩き、ヌードモデルやポルノ出演の後、今ではロシアのウォッカ成金の囲われもの。
 放浪の果て、老人とトビーが行き着いたのは豪勢な城。そこでは映画関係者による仮装舞踏会が開かれていた。
ラ・マンチャの男』が大好きな私には、わくわくするような刺激たっぷりの新作である。

 

テリー・ギリアムドン・キホーテ/The Man Who Killed Don Quixote
2018 スペイン・ベルギー・フランス・イギリス・ポルトガル/公開2020
監督:テリー・ギリアム
出演:アダム・ドライバージョナサン・プライスステラン・スカルスガルドオルガ・キュリレンコジョアナ・リベイロ、オスカル・ハエナダ