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『映画に溺れて』第306回 アイアン・スカイ

第306回 アイアン・スカイ

平成二十四年十月(2012)
府中 TOHOシネマズ府中


 近未来、アメリカは女性が大統領。次の選挙にそなえ、人気取りに黒人飛行士ジェームズ・ワシントンを月に送り月面から選挙公報、と思いきや、ジェームズの目に入ったのは月の裏側に作られた巨大なハーケンクロイツ。第二次大戦で敗戦の決したナチスの精鋭が、密かに月に逃れ、宇宙基地を建設、地球攻撃の機会を何十年もうかがっていた。この月面の基地、ほとんど一九四〇年代から進歩していない古色蒼然たるアナクロニズム
 ナチスの科学者はジェームズのスマホの超小型コンピュータ機能に注目、これを利用して、月面の軍事基地は大活性化する。が電池切れ。地球には大量のスマホがあると知り、月面将校クラウスが先陣として円盤型宇宙船で地球へ乗り込む。案内させられるのがアーリア薬を注入され肌の白くなったジェームズ。
 最初から最後まで無茶苦茶なギャグがいっぱい。月面の小学校ではチャップリンの『独裁者』をヒンケルが地球儀をもてあそぶ場面を中心に十分間の短編に編集し、総統の地球への愛を描いた美しい物語として見せている。
 合衆国大統領選の広告宣伝を請け負った代理店は、選挙演説に愛国、同胞愛、父母への敬愛などヒトラーのスローガンをそのまま引用して人気を高め、月面のナチスと今戦争すれば、国民の支持が高まると大統領は大喜び。
 核兵器満載のアメリカの宇宙戦艦の名前がジョージ・W・ブッシュ号。
 映画のラストシーン、さんざん笑わせて、ああ、怖い。キューブリックの『博士の異常な愛情』を思い出す。
 ハリウッドのコメディかと思ったら、フィンランドの映画なのだ。だから、国連の場面で唯一核武装していない国がフィンランドだけというギャグに納得。
 吸血鬼映画でおなじみのウド・キアが月面の総統役で登場。


アイアン・スカイ/Iron Sky
2012 フィンランド・ドイツ・オーストラリア/公開2012
監督:ティモ・ヴオレンソラ
出演:ユリア・ディーツェ、ゴッツ・オット、クリストファー・カービー、ペータ・サージェントステファニー・ポール、タイロ・プリュックナー、ウド・キア