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『映画に溺れて』第351回 シラノ・ド・ベルジュラック

第351回 シラノ・ド・ベルジュラック

令和二年二月(2020)
築地 松竹試写室

 ニューヨークは遠い。ブロードウェイの名舞台を観劇しようと思えば、旅費や滞在費、費やす時間がどれほどかかることか。そこでブロードウェイシネマである。
 今回の作品は二〇〇七年にリチャード・ロジャース劇場で上演された『シラノ・ド・ベルジュラック』をそのまま映像化したもの。エドモン・ロスタンのフランス古典劇に挑戦するのは名優ケビン・クライン。台詞の英語翻訳は『時計仕掛けのオレンジ』のアントニー・バージェス。
 詩人であり剣豪であり博学多才のシラノ・ド・ベルジュラック。人一倍大きな鼻ゆえ、従妹ロクサーヌへの恋心を秘している。そのロクサーヌがシラノと同じガスコン青年隊のクリスチャンに思いを寄せており、シラノに相談。クリスチャンもまた、ロクサーヌを愛しく思っている。シラノはふたりの恋を取り持ち、美男だが無粋なクリスチャンに代わって恋文を書き、バルコニーでは闇に乗じて愛の言葉をロクサーヌに語りかけ、感動させる。
 クリスチャンとロクサーヌはその場で結婚するが、彼女に横恋慕する卑劣な貴族によって、初夜さえ迎えぬままシラノとともに戦場の最前線に送られ、クリスチャンはやがて戦死する。
 終幕、修道院に身を寄せ、何年もの間、夫クリスチャンの喪に服するロクサーヌ。毎週、彼女の話相手として通い続けるシラノ。
 彼女は美男のクリスチャンに一目ぼれしたが、彼女が愛したのは心のこもった恋文であり、バルコニーで語られた愛の言葉だったのだ。
 ケビン・クラインの名演技、最後の手紙の場面では思わず涙が流れた。
 シラノは実在の人物であり、同時代の劇作家モリエールはシラノの戯曲を盗作したらしい。クリスチャンは美男にして、モリエールは天才なりき。

 

シラノ・ド・ベルジュラック/Cyrano de Bergerac
2007 アメリカ/公開2020
演出:デヴィッド・ルヴォー
出演:ケビン・クラインジェニファー・ガーナー、ダニエル・サンジャタ、マックス・ベイカー、ユアンモートンクリス・サランドン、ジョン・ダグラス・トンプソン、コンチータ・トメイ