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『映画に溺れて』第493回 メル・ブルックスの大脱走

第493回 メル・ブルックス大脱走

平成二年二月(1990)
中野 中野武蔵野ホール

 

 エルンスト・ルビッチが戦時中に作った反ナチコメディ『生きるべきか死ぬべきか』が日本で公開されたのが一九八九年、が、それより早い一九八四年にリメイク版『メル・ブルックス大脱走』が公開されている。
 名作のリメイクは割りに合わない。下手に細工して失敗すれば、名作への冒涜だと非難される。完璧になぞっても原作を簡単に超えられないし、うまくいっても、元が素晴らしいから当然だと言われる。
 メル・ブルックスはルビッチのオリジナルをかなり忠実になぞり、一九三九年のワルシャワを再現。内容も筋運びもほぼ同じだが、そこにブルックスらしいギャグがふんだんに入る。
 座長のブロンスキーと夫人で花形スターのアンナがポーランド語で歌って踊る「スウィート・ジョージア・ブラウン」で幕が開く。そして場内アナウンスが流れ、以後、ポーランド語は禁止、英語のせりふになる。
 オリジナルで座長を演じたジャック・ベニーは二枚目で劇中の舞台劇も正統派だったが、ブルックス版では劇中劇がミュージカルコメディになっており、ブルックス演じるブロンスキー座長はヒトラーのコントで「ハイル・マイセルフ」を連発。これが『独裁者』のチャップリンそっくり。この場面は後にミュージカル『プロデューサーズ』でヒトラーが歌って踊る「春のヒトラー」につながるのだろう。
 座長夫人アンナを演じるのが実際にブルックス夫人のアン・バンクロフトハムレットの長ぜりふを合図に楽屋で夫人と逢瀬を楽しむ空軍パイロットがティム・マティスン。ナチススパイの教授がホセ・ファーラーゲシュタポのエアハルト大佐がチャールズ・ダーニング。その部下のシュルツがクリストファー・ロイド。配役もオリジナルと比べてはるかに喜劇色が強い。アンナの付き人がゲイだったり、大量のユダヤ難民をいっしょに国外脱出させたり、オリジナルと比較しても遜色がない楽しいコメディである。

 

メル・ブルックス大脱走/To Be or Not to Be
1983 アメリカ/公開1984
監督:メル・ブルックス
出演:アン・バンクロフトメル・ブルックス、ティム・マティスン、チャールズ・ダーニングホセ・ファーラークリストファー・ロイド