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『映画に溺れて』第532回 下妻物語

第532回 下妻物語

平成十六年十二月(2004)
飯田橋  ギンレイホール

 嶽本野ばらの原作小説が面白く、中島哲也監督の映画がさらに面白かったのが『下妻物語』である。
 茨城県下妻に住む十七歳の少女桃子。三時間かけて東京の代官山ベイビーにひらひらのおフランス風お姫様洋服を買いに行くのが趣味。
 この主人公を紹介するのが、例えば寂れた下妻駅の待ち合い室にあるTV画面。そこでは尼崎で父親のちんぴらが偽ブランドのテキヤとして一時羽振りがよくなるが、身辺が危なくなって郷里の下妻に逃げて来るまでが語られる。
 高校生の桃子はフランスのロココ調に憧れているが友達はいない。それがスピードと暴力に生きる同世代の暴走族少女イチゴと親しくなる。
 下妻の八百屋が大手スーパーのジャスコを賛美する最初の場面から、フランスロココの紹介、父と母のなれ初め、全体がほとんどギャグ、ギャグ、ギャグ。だが、そこに自己中心的な少女が友情を育むという大きなテーマが隠されている。
 桃子を演じる深田恭子とイチゴを演じる土屋アンナの馬鹿馬鹿しい出会い。この映画の成功は出演者たちの個性と演技力であろう。
 深田は主人公の雰囲気にぴったり嵌まっている。土屋アンナの暴走族がまた凄まじい。最後の乱闘場面で、主人公が尼崎のチンピラの娘という生い立ちが活かされる。
 そして脇を固める偽ブランド商売の父の宮迫博之、中年で美容学校に通う母の篠原涼子、田舎の老婆である祖母の樹木希林、パチンコ屋で知り合う極端なリーゼントのチンピラ阿部サダヲ、八百屋の荒川良々、コンビニの水野晴郎など申し分のないキャスティング。
 私がこの映画を観たのは飯田橋ギンレイホールだった。あまりに面白かったので、当時ギンレイパスポート会員だったから、会期中、二回通った。そのギンレイホールが老朽化のためこのほど閉館とのことで、とても悲しい。この映画館で私は何百本観たことだろう。

 

下妻物語
2004
監督:中島哲也
出演:深田恭子土屋アンナ宮迫博之篠原涼子樹木希林阿部サダヲ荒川良々矢沢心本田博太郎