日本歴史時代作家協会 公式ブログ

歴史時代小説を書く作家、時代物イラストレーター、時代物記事を書くライター、研究者などが集う会です。Welcome to Japan Historical Writers' Association! Don't hesitate to contact us!

『映画に溺れて』第286回 ウルトラマン

第286回 ウルトラマン

平成二十二年八月(2010)
銀座 銀座シネパトス

 TVでウルトラマンが登場したのが一九六六年。その前に同じ時間帯で『ウルトラQ』というトワイライトゾーンを思わせる不思議なシリーズがあり、その後が『ウルトラマン』シリーズ、そして『怪奇大作戦』など、中学生の私は夢中で観ていた。
 毎回、ウルトラマンが怪獣と戦うのが決まりだが、コンピュータグラフィックスのない当時、しかも低予算のTVシリーズ。怪獣はほとんど着ぐるみだった。
 怪獣と戦うのはウルトラマンだけではなく、科特隊という組織。これが小林昭二をリーダーに黒部進毒蝮三太夫二瓶正也、紅一点の桜井浩子という小人数。
 実は隊員の黒部進の正体がウルトラマンなのだが、だれも知らない。
 このシリーズ、単なる怪獣バトルでない面白さがあり、実相寺昭雄監督、佐々木守脚本のTV放送版のうち五本を選んで再編集したオムニバスが一九七九年の劇場版『ウルトラマン』である。
 たとえば、子供たちの落書きの怪獣が宇宙の怪光線で実体化してしまい、これとウルトラマンが戦う場面。子供たちは怪獣のほうを応援し、怪獣が退治されると悲しんでしまう。
 たとえば、宇宙からやって来た怪獣が、実は米ソの宇宙計画で宇宙に見捨てられた飛行士の変身した姿だったとか。
 たとえば、ウルトラマンに退治された怪獣たちの霊が宇宙空間にさまよっていて、隊員たちが僧侶を呼んでお経をあげて、怪獣の供養をするとか。
 佐々木守著『ウルトラマン怪獣墓場』に、再編集版のオリジナルシナリオのほか、怪奇大作戦のシナリオも入っていて、読み応えあり。
 余談ではあるが、泉昌之の漫画『かっこいいすきやき』の中のウルトラマンパロディも私は好きだ。

 

ウルトラマン
1979
監督:実相寺昭雄
出演:黒部進小林昭二二瓶正也毒蝮三太夫桜井浩子

 

 

『映画に溺れて』第285回 のり平の三等亭主

第285回 のり平の三等亭主

平成十二年五月(2000)
黄金町 シネマジャック

 一九五〇年代、TVの普及していなかった頃の映画館での一時間のホームドラマ
 東京郊外に住む新婚サラリーマン。三木のり平と中田康子。風景は『マダムと女房』に似ている。
 この若夫婦二人のところへ妻の妹が押し掛け同居。
 夫は印刷会社の社員。大学出の中流家庭だが、五〇年代の中流家庭は現代と比べると、住居も台所も格段に質素だ。が、当時はこれが庶民の目標だったのだろう。
 私が生まれた頃のことで、なんとなく懐かしい。取るに足りない夫婦間のあれこれがのどかで、今思うといい時代だったのだ。
 続篇の『のり平の浮気大学』も同じ監督、同じ配役で、妻が電気洗濯機を欲しがり、懸賞の景品が洗濯機だからと、応募のために無駄な商品を買い込んだり、夫が町内の相撲大会に出場して賞品の洗濯機を取ろうとしたり。
 電気洗濯機はまだまだ一般には手の届かない高価な品物だったのだ。
 のり平亭主は貧弱な体格なのに奮闘して相撲大会で優勝するが、せっかく取った洗濯機は施設に寄付してしまう。
 終戦直後、現実はもっと殺伐としていたかもしれない。が、映画の中では人々はみんな善良でほのぼのとして、ささやかながらも幸福な生活を送っている。

のり平の三等亭主
1956
監督:丸林久信
出演:三木のり平、中田康子、森啓子、石原忠、柳沢真一、中村是好北沢彪藤間紫、不二幸江、富田仲次郎、宮田洋容

のり平の浮気大学
1956
監督:丸林久信
出演:三木のり平、中田康子、森啓子、石原忠、柳沢真一、中村是好北沢彪藤間紫、千葉信男、北川町子、河内桃子、富田仲次郎、一の宮あつ子、沢村いき雄

 

『映画に溺れて』第284回 次郎長意外伝 灰神楽の三太郎

第284回 次郎長意外伝 灰神楽の三太郎

平成十二年五月(2000)
黄金町 シネマジャック

 三木のり平といえば、真っ先に思い浮かぶのが海苔の佃煮のコマーシャルと、社長シリーズの宴会好きの課長役。なにかにつけ、うれしそうにパーッといきましょうとはしゃぐ姿。
 のり平が亡くなったとき、小学館から出た『のり平のパーッといきましょう』という本がすばらしくて、のり平の映画が観たい観たいと思っていたら、ちょうど一年後に横浜黄金町のシネマジャックで追悼特集が組まれたのだ。その特集名もやはり「パーッといきましょう」だったと思う。
 のり平の主演作『次郎長意外伝 灰神楽の三太郎』は外伝でなく意外伝。
 清水の次郎長シリーズの番外篇であり、灰神楽の三太郎が主人公のパロディなのだが、次郎長役の小堀明男や死んだ石松役の森繁久弥も脇で出演。
 灰神楽の三太郎の間抜けぶりは与太郎そのもの。中田康子がモンロー亭という飲み屋の女給まりりんお紋。マリリン・モンローの江戸版で、時代劇という枠を無視して、映画が作られた当時の一九五〇年代をそのまま表現しており、せりふにもプレゼントだのと横文字や現代語が平気で入る楽しさ。
 で、この三太郎が次郎長親分の代理で別の親分の孫の出産祝いに出かけ、兄貴分の追分の三五郎や、まりりんお紋までが同行する。お紋の旅人姿がかなりセクシーで、本家モンローを彷彿させる。
 途中、由利徹南利明八波むと志脱線トリオが偽次郎長一味として絡んだり、越路吹雪扮する仇討ちの武家の妻女を三太郎が助けたりとドタバタが続いて、ああ、また観たくなった。

次郎長意外伝 灰神楽の三太郎
1957
監督:青柳信雄
出演:三木のり平、小堀明男、森繁久弥、中田康子、由利徹八波むと志南利明、中村宗之助、本郷秀雄、小杉義男

『映画に溺れて』第283回 奇々怪々俺は誰だ

第283回 奇々怪々俺は誰だ

平成二十二年十二月(2010)
銀座 銀座シネパトス

 銀座シネパトスの谷啓追悼特集、二本目が『奇々怪々俺は誰だ』
 これほどまでにシュールでナンセンスな映画、それを普通の東宝コメディで撮っているとは。
 主人公の名前が鈴木太郎。ジョン・スミスを思わせる凡庸にして匿名性のある名前。『クレージーだよ奇想天外』で谷啓が演じた宇宙人、その地球でのサラリーマン名がやはり鈴木太郎であった。
 ある朝、会社に出勤した鈴木は、同僚から不審者扱い。誰も彼を知らず、そればかりか、まったく別人が鈴木太郎と称して彼の席に座っているのだ。悪質ないたずらと思いきや、友人も隣人も彼を知らないという。家に帰ると、朝、会社にいた鈴木と称する男が妻や子と夕食の途中。暴れて警察に連行され、そこを抜け出して、故郷に行くと、母も彼を知らないといい、泥棒扱いされて、村人に追われる。
 偶然知り合った自殺未遂の若い女だけが元々彼を知らないので鈴木と認めてくれる。彼女の助言でTVの尋ね人番組で自分が誰か知っている人は連絡してほしいと訴えると、さっそく身元がわかり、彼は鈴木次郎として精神病院へ。患者だったと言われるが、彼には覚えがない。
 そこへギャングの手下が現れ、彼は精神病院に姿を隠している殺し屋の鈴木三郎だと告げられる。そしてアメリカ帰りの企業の二代目を暗殺する仕事を親分から依頼され、二代目ともみ合ううちに相手を射殺。その瞬間、彼は企業の二代目鈴木四郎となり、社長の椅子を引き継ぐことに。
 といった具合にめまぐるしく彼の運命は変化するが、彼はいったい誰なのか。最後のバカバカしさ、驚いた。一九六九年の作なので、女性がみんなミニスカートというのも懐かしい。鈴木の勤めている会社が牛印乳業というネーミング、なにからなにまでが馬鹿馬鹿しくて。

奇々怪々俺は誰だ
1969
監督:坪島孝
出演:谷啓吉田日出子犬塚弘横山道代山茶花究、田武謙三、人見明、船戸順、ハナ肇田崎潤なべおさみ、吉村実子、左ト伝

 

『映画に溺れて』第282回 空想天国

第282回 空想天国

平成二十二年十二月(2010)
銀座 銀座シネパトス

 子供の頃、私はクレージーキャッツが大好きで、植木等ハナ肇も好きだったが、谷啓には特に惹かれていた。
 谷啓が亡くなったとき、銀座シネパトスで追悼特集「虹を渡ってきた男・ガチョーン伝説」が開催された。「虹を渡ってきた男」というのは谷啓主演の『クレージーだよ奇想天外』の主題歌。「ガチョーン」というのは谷啓得意のキャッチフレーズ。
 植木等は天性の明るさでカリスマ的存在、ハナ肇浪花節的人情喜劇、では谷啓の魅力はといえば、その変人ぶりであろうか。
 芸名がダニー・ケイをもじったものであることは周知の事実。ダニー・ケイの代表作といえば、『虹を摑む男』、ジェームズ・サーバーの短編をもとにした映画で、空想癖のある主人公が現実と白日夢との区別がつかなくなる。その谷啓版が、この『空想天国』なのだ。ゆるゆるのギャグ、それなのに、全然泥臭くなくて、不思議におしゃれな、日本のお笑い芸人にはちょっとない洒落たセンス。
 大手建設会社の設計部に勤める主人公、独身で母親とふたり暮らし。なにかにつけ、いつも夢見ている男。
 地方出張を命じられると、事前に行った先で出会う人たちを想像する。実際に行ってみると、現実は彼の空想と不思議に似ているところもありながら、全然違う結果にもなる。
 夢の中に出てくる理想の女性が酒井和歌子。彼は現実世界で産業スパイ戦に巻き込まれ、理想の彼女に出会う。
 だが、彼女は調子のいい二枚目に惹かれている様子。これが宝田明
 夢見る主人公は、はたして現実でも幸福になれるのだろうか。もちろん、なれるのだが、はて、その幸福、ほんとうに現実か、それとも夢の延長か。

空想天国
1968
監督:松森健
出演:谷啓宝田明酒井和歌子、北あけみ、藤岡琢也ハナ肇桜井センリ藤田まこと京塚昌子平田昭彦

 

『映画に溺れて』第281回 女は男のふるさとヨ

第281回 女は男のふるさとヨ

平成十二年五月(2000)
黄金町 シネマジャック


 森繁久弥といえば、社長シリーズに駅前シリーズが有名で、新宿芸能社を舞台にしたシリーズ、たくさんは続かなかったが、私は好きだ。
夫婦善哉』の流れに属する駄目なのに可愛い男の典型がこの新宿芸能社の社長かも知れない。
 好色だがギトギトしておらず、弱いけれども見栄はあり、やり手の妻には頭が上がらず、空気のように飄々として頼りないが、一応は主人風も吹かせる。ある意味では男の理想だろうか。
 ストリッパーを斡旋するプロダクションの社長、といっても、ごく普通の民家に看板が掛かっていて、社長というより中小商店の親父さん。おかみさんが中村メイコ。何人かの踊り子がここで寝起きしている。
 倍賞美津子ふんする売れっ子が旅興行から帰って来るが、この踊り子を崇拝して、いっしょにくっついて回るのが河原崎長一郎の自動車修理工。
 片目だけ整形した東北出身の新人の踊り子が緑魔子。これに惚れる老人が伴淳三郎
 旅回りの倍賞美津子は『男はつらいよ』の寅次郎を女にしたよう。とすれば新宿芸能社の森繁、中村メイコ夫婦は団子屋の主人夫婦の役どころか。なるほど、監督の森崎東は、この映画の前に『男はつらいよ』シリーズの第二作『フーテンの寅』を撮っている。
 新宿芸能社シリーズまたは喜劇女シリーズ、このあと『女生きてます』『女売り出します』『女生きてます 盛り場渡り鳥』と全部で四本作られ、おかみさんは左幸子市原悦子が交代で演じている。

 

女は男のふるさとヨ
1971
監督:森崎東
出演:森繁久弥中村メイコ倍賞美津子緑魔子河原崎長一郎伴淳三郎花沢徳衛犬塚弘山本紀彦、左卜伝、園佳也子、山本麟一、名古屋章中村是好、立原博

 

『映画に溺れて』第280回 陽気な未亡人

第280回 陽気な未亡人

平成十五年十一月(2003)
阿佐ヶ谷 ラピュタ阿佐ヶ谷

 ノエル・カワードに『陽気な幽霊』という舞台劇があり、テアトルエコーの公演を観たことがある。『陽気な未亡人』はタイトルからして、おそらくこのカワード戯曲をヒントにしているのだろう。幽霊が登場する映画だが、フランキー堺主演なので、当然ながら怪談ではなく、コメディである。
 男が急死し、新珠三千代ふんする妻が未亡人となる。男は妻に未練が残り、幽霊となって妻の周辺に出没する。だれも気付かないのだが、この幽霊の狂言回しで物語が展開する。
 妻の友人で料理屋の女主人が淡島千景。未亡人だが、楽しくやっている。
 淡島の後輩の水谷良重は夫との仲がぎくしゃくして未亡人状態。
 水谷の住む団地に野菜を届ける八百屋の未亡人が池内淳子で、農夫といい仲。
 この女たちが集まって、酒を飲み、男を笑い飛ばすという快作。
 注目すべきは主演のフランキー堺
 新珠の夫の幽霊役をはじめとして、水谷の夫のサラリーマン、池内の情夫の農家の主人、未亡人新珠に求婚する大学助教授、と重要な役を全部ひとりで演じているのだ。他にもマッサージ師、好色な中年紳士、アパートの遊び人、などなど小さな役も含めて七役こなす。
 まあ、要するに、男なんてみんなおんなじようなものさ、というのがテーマだろうが、このひとり七役は見ものである。

 

陽気な未亡人
1964
監督:豊田四郎
出演:フランキー堺新珠三千代水谷良重淡島千景岸田今日子池内淳子坂本九

 

『映画に溺れて』第279回 シックスセンス

第279回 シックスセンス

平成十一年十一月(1999)
渋谷 渋東シネタワー

 いろんな映画をたくさん観て、すれっからしになってくると、意外な結末だといわれても、先が読めてしまうことが多いのだが、この映画にはだまされた。今ではこの最後のどんでん返し、知っている人は多いだろうが、やはりネタバレは禁物だと思う。
 児童心理学者マルコムが市長から表彰されたその夜、かつて救えなかった患者に襲われる。元患者はその場で自殺する。
 一年後、マルコムはその患者と似た少年コールに出会い、今度はちゃんと救おうとする。コールは両親の離婚で不安定になっている。が、実は見えるというのだ。死んだ人間が。そのことを誰にも話せず、母にも告げられずに苦しんでいる。嘘をついているのか、頭がおかしいのか、それとも本当に見えるのか。
 マルコムは事件以降、妻との仲が冷めて悩んでいる。コールの話を親身に聞き、彼の恐怖を取り除こうとする。かつて失敗した例の患者もまた、コールと同じ悩みを持っていたのだ。古いテープの記録を聞くと不思議な言葉が録音されている。
 コールに死者が見えるということは、死者が彼に救いを求めているのではないか。マルコムはコールに言う。死者の言葉に耳を傾けるようにと。
 現れた少女の亡霊はコールにあることを依頼する。彼は少女の葬儀の場へ行き、亡霊の言った通りのビデオテープを発見してそれを少女の父親に見せる。そこには少女の死の真相が録画されていた。
 コールの特殊な能力、それは悩める死者のためのカウンセリングだったのだ。
 妻と不仲のマルコムにコールは言う。彼女が眠っている間に話せばいい。きっと聞いてくれるはずだと。マルコムは家に帰る。そこに待っていた真実。
 この最後のドンデン返し、映画史上に残るだろう。

 

シックスセンス/The Sixth Sense
1999 アメリカ/公開1999
監督:M・ナイト・シャマラン
出演:ブルース・ウィリスハーレイ・ジョエル・オスメントトニ・コレットオリヴィア・ウィリアムズ

 

『映画に溺れて』第278回 永遠に美しく

第278回 永遠に美しく

平成四年十二月(1992)
渋谷 渋東シネタワー1

 いつまでも若く美しくありたいと願うのは女性ならば当然であろう。だがしかし、不老不死には落とし穴が。メリル・ストリープの女優とゴールディ・ホーンの女流作家がブルース・ウィリスを取り合うという異色コメディである。
 もはや若くない落ち目の二流女優マデリーンがミュージカルの主役を演じている。男のダンサーたちが主演女優をもちあげる内容に辟易して、途中でどんどん席を立って出ていく客たち。それでも最後まで残って感激のあまり喝采を送るのが、女流作家ヘレンの婚約者で整形外科医のアーネスト。
 ヘレンは何度もボーイフレンドをマデリーンに横取りされているので、今回は婚約者の愛情をテストするため、敢えて彼女に紹介した次第。それを聞いたアーネスト、あんな女は嫌いだから心配ないと請け合う。その次の場面がマデリーンとアーネストの結婚式。それを陰で悔しそうに眺めるヘレン。
 七年後。ヘレンは失意のあまり、ノイローゼの肥満女になっている。CGではなく特殊メイクで本物の体重百キロに見える。
 また七年後。アーネストとマデリーン夫妻の仲は冷めきっている。マデリーンは体のたるんだ中年女優。そこへヘレンから出版記念パーティの招待状が届く。出かけてみると、ヘレンは痩せていて、五十才だというのに若く美しい。マデリーンは焦る。いつか美容院で貰ったインチキ名刺をたよりに若返りの秘術を商売にしている謎の女を訪ねる。そこで飲まされたのが。
 不老不死の落とし穴。永遠に死なないということは、肉体がぼろぼろに腐っても生き続けるということなのだ。
 当時四十七歳のホーンと四十三歳のストリープより、三十七歳のウィリスが一番老けて見えるのもすごい。

 

永遠に美しく/Death Becomes Her
1992 アメリカ/公開1992
監督:ロバート・ゼメキス
出演:メリル・ストリープブルース・ウィリスゴールディ・ホーンイザベラ・ロッセリーニ

『映画に溺れて』第277回 ビッグ

第277回 ビッグ

平成十一年三月(1999)

調布 グリーンホール小ホール

 年齢とともに貫禄のある役が多くなったトム・ハンクスだが、若い頃はけっこう軽い喜劇に主演していた。中でも私が好きなのが『ビッグ』である。
 十二歳のジョシュは好きな女の子にガキなんて相手にしないと馬鹿にされる。悔しくて、たまたま町に来ていたカーニバルの願い事マシーンにコインを入れて祈る。ぼくを大きくしてください。
 翌朝、目覚めると願いが叶っていた。息子の部屋を覗いた母親、変な男がいるので、びっくりして大騒ぎ、あわてて逃げ出す。カーニバルまで行くと、すでに別の巡業先に移動している。なんとか探し当てて、願い事マシーンに元の子供に戻してもらわなくては。だが、どうすればいいのか。
 見知らぬ男が現れ、息子がいなくなったことで、誘拐事件と思い込んだ母親が警察に通報。もう家には戻れない。ともかく親友ビリーのところへ行く。最初は不審者と思って逃げるビリーだが、二人の秘密の合言葉があって、それを言うと、外見は大人だがジョシュなんだとわかる。子供には不思議を信じる力があるのだ。
 大人には仕事が必要だ。ビリーの助言で玩具会社の求人広告を見つける。子供が何を欲しがっているか、それを知っているのは子供である。アイディアが認められ、就職が決まり、社長に気に入られて、あっという間に若手重役に。
 玩具会社の同僚スーザンは、いきなり現れて出世するジョシュに敵意を抱くが、彼のあまりに純朴な心根に打たれ、恋心が芽生える。いつまでも少年の心を失わない男というのは女性にとって魅力なのだ。大人の女性との初めての恋愛。が、根が子供だから二人の関係はぎくしゃく。
 ビリーの奔走で、やがてカーニバルの巡業先がわかるのだが……。なんとも切ないラストシーン。この時期のトム・ハンクス、ほんとに大人子供に見える。そして、スーザンのエリザベス・パーキンス、きれいだった。

 

ビッグ/Big
1988 アメリカ/公開1988
監督:ペニー・マーシャル
出演:トム・ハンクスエリザベス・パーキンス、ロバート・ロッジア、ジョン・ハード、マーセデス・ルール