『映画に溺れて』第281回 女は男のふるさとヨ
第281回 女は男のふるさとヨ
平成十二年五月(2000)
黄金町 シネマジャック
森繁久弥といえば、社長シリーズに駅前シリーズが有名で、新宿芸能社を舞台にしたシリーズ、たくさんは続かなかったが、私は好きだ。
『夫婦善哉』の流れに属する駄目なのに可愛い男の典型がこの新宿芸能社の社長かも知れない。
好色だがギトギトしておらず、弱いけれども見栄はあり、やり手の妻には頭が上がらず、空気のように飄々として頼りないが、一応は主人風も吹かせる。ある意味では男の理想だろうか。
ストリッパーを斡旋するプロダクションの社長、といっても、ごく普通の民家に看板が掛かっていて、社長というより中小商店の親父さん。おかみさんが中村メイコ。何人かの踊り子がここで寝起きしている。
倍賞美津子ふんする売れっ子が旅興行から帰って来るが、この踊り子を崇拝して、いっしょにくっついて回るのが河原崎長一郎の自動車修理工。
片目だけ整形した東北出身の新人の踊り子が緑魔子。これに惚れる老人が伴淳三郎。
旅回りの倍賞美津子は『男はつらいよ』の寅次郎を女にしたよう。とすれば新宿芸能社の森繁、中村メイコ夫婦は団子屋の主人夫婦の役どころか。なるほど、監督の森崎東は、この映画の前に『男はつらいよ』シリーズの第二作『フーテンの寅』を撮っている。
新宿芸能社シリーズまたは喜劇女シリーズ、このあと『女生きてます』『女売り出します』『女生きてます 盛り場渡り鳥』と全部で四本作られ、おかみさんは左幸子、市原悦子が交代で演じている。
女は男のふるさとヨ
1971
監督:森崎東
出演:森繁久弥、中村メイコ、倍賞美津子、緑魔子、河原崎長一郎、伴淳三郎、花沢徳衛、犬塚弘、山本紀彦、左卜伝、園佳也子、山本麟一、名古屋章、中村是好、立原博