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『映画に溺れて』第15回 マタンゴ

第15回 マタンゴ

 

昭和三十八年八月(1963)

大阪 梅田

 

 これは小学四年生の夏休み。夏休みや冬休みには父や祖母が映画館に連れていってくれる。父も祖母も映画が好きだった。そして私は休みの映画がなにより楽しみだった。

 特撮ながら、『マタンゴ』には巨大怪獣が出てこない。それなのに、子供心に怪獣映画よりも怖かった。海を漂流中、助け出された男が語る体験談。という体裁になっている。

 数人の若い男女が大きなヨットで遊んでいて、嵐で遭難し、無人島に流れつく。人はいないが、そこには不気味な生き物がいる。

 先に流れ着いた漂流者の書置きがあり、キノコを食べてはいけないと警告されている。だが、食べ物がなくなり、とうとうひとり、またひとりと、島に生えているキノコを口にする。食べると、全身に不気味なできものができて、徐々にキノコに変身してしまうのだ。

 島の不気味な生き物は、以前の漂流者がキノコに変身した姿だった。

 食べた者をキノコに変える毒キノコ、それがわかっても、飢えの苦しみから、キノコに手を出さざるを得ない。一口食べると、麻薬のように気分がよくなり、やめられなくなる。という恐ろしい物語だ。

 そして、語り終わった男は……。

 当時は二本立てで、もう一本が加山雄三の『ハワイの若大将』だった。

マタンゴ』は大人になってから、大井武蔵野館で再び観た。子供のときには気がつかなかったが、遭難する七人の男女の中には黒澤明の作品に出ている土屋嘉男、太刀川寛、久保明もいる。怪奇映画であり、心理ドラマでもあったのだ。

 

マタンゴ

1963

監督:本多猪四郎

出演:久保明水野久美、小泉博、佐原健二、太刀川寛、土屋嘉男