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『映画に溺れて』第192回 マトリックス

第192回 マトリックス

平成十一年九月(1999)
錦糸町 楽天地シネマ1

 

 この映画を観たあと、私は周囲を見回した。私が今、見ている景色、触ったり、音を聴いたり、食べたり飲んだり、人と会って話をしたり、それは本当のことなのか。
 私は全然別の場所に眠っていて、経験していると思い込んでいることは、すべて脳に直接送られている信号に過ぎないのだとしたら。
 これは記憶についての物語なのである。近未来SFアクションと思われがちだけれど、それは付け足しであって、テーマは現実と区別のつかない仮想現実なのだ。
 主人公は、コンピュータソフトの会社に勤めているサラリーマンだが、裏ではネオと呼ばれるハッカーでもある。
 ある日、不可解なメールを受け取り、不思議の国のアリスよろしく指示通り白いウサギのあとをつけると、そこに待っていたのが謎の男モーフィアス。
 彼は言う。われわれが現実だと信じているこの世界は、本当は存在しない。コンピュータが作り出し、人間の脳に直接送り込んでいる偽の記憶に過ぎないのだと。
 では、本当の世界とは。
 かつて人間は自ら開発した高度なコンピュータとの争いに敗れた。世界はコンピュータが支配し管理しており、人間の思考が動力源となるため、生かさず殺さず。人々は養鶏場の鶏のように、カプセルの中で飼われている。工場にずらりと並ぶ卵型のカプセル。その中で丸まって、眠り続ける人々。生まれたときから偽の記憶を植え付けられて、実際には経験していない人生を生きているのだ。
 現実を知らされたネオはカプセルから出され、レジスタンスの仲間となって、やがて救世主として、コンピュータと戦い続ける。
 スタイリッシュなアクションシーンばかりが話題になり、続編がただの大味なドンパチ映画で終わったのは実に残念ではある。

 

マトリックスThe Matrix
1999 アメリカ/公開1999
監督:アンディ・ウォシャウスキー、ラリー・ウォシャウスキー
出演:キアヌ・リーブスローレンス・フィッシュバーンキャリー=アン・モスヒューゴ・ウィービングジョー・パントリアーノ