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『映画に溺れて』第430回 駅馬車

第430回 駅馬車

昭和四十八年四月(1973)
大阪 梅田 梅田地下劇場

 

 私が映画館に通い始めた一九七〇年代、ジョン・ウェインベトナム戦争礼賛のタカ派のイメージが強くて好きになれなかった。二〇一五年の映画『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』では、赤狩りに積極的に協力した悪役として描かれている。
 封切りで間に合ったジョン・ウェインの新作は晩年の『ビッグケーヒル』ぐらいで、もちろん往年の西部劇『赤い河』も『リオ・ブラボー』も『アラモ』も未見のままだ。
 だが、当時は家庭用のビデオもまだ存在しない時代であったので、有名作品のリバイバル上映は多く、ジョン・フォードの古典的名作であり、ジョン・ウェイン出世作でもある『駅馬車』を映画館で観られたのは幸せだった。
 出発する駅馬車。乗り合わせるのは町を追われた娼婦ダラス、酔いどれの医者ブーン、夫に会いに行く軍人の妻ルーシー、気取った賭博師ハットフィールド、ウイスキー販売のピーコック、公金横領の銀行家ゲートウッド。鞭をふる御者バックの横に同乗するのは保安官カーリー。
 この一行に途中からお尋ね者のガンマン、リンゴ・キッドが加わる。
 護衛の騎兵隊は次の駅で引き返し、馬車はジェロニモ率いるアパッチ族が待ち構えている荒野を進む。砂漠や岩山の続く西部の風景はモノクロでも美しい。
 騎士道精神から貴婦人のルーシーに親切にするハットフィールド。
 リンゴ・キッドは張り合うように一同から白い目で見られているダラスに優しく接する。
 馬車の中継地で夫の負傷を聞いてショックから産気づいたルーシーを、酒を飲み続けていたブーンが大量のコーヒーで酔いを醒まし赤子を取り上げる。
 そしてインディアンの大襲撃と最後のリンゴ・キッドの決闘。タカ派ジョン・ウェインは好きではないが、この若き日のリンゴ・キッドはかっこいい。これぞ、西部劇のお手本のような名作である。

駅馬車/Stagecoach
1939 アメリカ/公開1940
監督:ジョン・フォード
出演:クレア・トレバー、ジョン・ウェイン、アンディ・ディバイン、ジョン・キャラダイン、トーマス・ミッチェル、ルイーズ・プラット、ジョージ・バンクロフト、ドナルド・ミーク、バートン・チャーチル、ティム・ホルト、トム・タイラー