『映画に溺れて』第441回 けっこう仮面
第441回 けっこう仮面
平成十六年二月(2004)
渋谷 アップリンクファクトリー
アップリンクファクトリーは最初、渋谷公会堂にほど近い小さなビルの一室にあって、一万円の年会費で全作品が見放題だった。どれだけ通ったことか。ほとんどがマイナー映画で、五十人ほどの客席はいつもがらがら、私ひとりだけの貸し切り状態というのも経験した。
ここで超満員になったのが、永井豪原作の『けっこう仮面』である。夜間のみ、短期間だけの上映にどんどん客が詰めかけたのだ。
永井豪のコミックは『ハレンチ学園』がヒットし、私も漫画本を読み、児島美ゆき主演の実写映画も観ていた。エロではあるが、ポルノではない。登場人物の少女たちが不条理にもなぜか服を脱がされ裸にされてしまうのだ。もともと少年漫画だから、それ以上の過激な描写はないが、それでも下手なポルノよりもよほど欲情を刺激されたものである。
『けっこう仮面』も永井豪の一連のハレンチ漫画で、月光仮面をもじって赤い仮面、赤いマフラー、赤いブーツのヒロインが悪をやっつける物語だ。ただし、身につけているのはこの仮面、マフラー、ブーツのみ。つまり顔は隠しているが、ほとんど全裸なのである。主題歌もまた月光仮面をもじって「顔はだれかは知らないけれど/からだはみんな知っている/けっこう仮面の姉さんは/正義の味方だ/いいひとだ」というもの。
映画版は他愛ない。アナウンサー養成学園で女生徒たちが過酷なセクハラまがいのお仕置を受ける。そこへ謎のヒロインけっこう仮面が現れて女生徒を救う。
学園長役の鈴木ヒロミツは以前にモップスという『月光仮面』をブルース風に歌うグループの一員だった関係で出演したのだろうか。石丸謙二郎の怪演が光る。
それにしてもアップリンクを超満員にするほど『けっこう仮面』ファンが多いのには驚いた。客席は男ばかりかと思いきや、けっこう若い女性も半分ぐらい占めていた。続けて河崎実監督の『まぼろしパンティVSへんちんポコイダー』もここで観ることができた。
他にも『ゾンビ極道』『会田誠無気力大陸』『ひなぎく』『美しき冒険旅行』『ルル』『援助交際撲滅運動地獄変』などなど、たくさん観た。その後、アップリンクは宇田川町の大きなビルに移転し、吉祥寺にも新たに劇場を開いたが、コロナ禍で渋谷は閉館となった。
けっこう仮面
2004
監督:長嶺高文
出演:斎藤志乃、稲原樹莉、石丸謙二郎、鈴木ヒロミツ、久保恵子、湯浅奈央