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『映画に溺れて』第487回 ボン・ヴォヤージュ

第487回 ボン・ヴォヤージュ

平成十七年四月(2005)
飯田橋 ギンレイホール

 

 第二次大戦時のパリ陥落を背景にしたイザベル・アジャーニ主演のコメディ。厳しい戦時下が題材ながら、エスプリたっぷりのおしゃれなウェルメイドプレイになっており、これぞフランス喜劇である。
 ドイツ軍によるパリ陥落の直後。銀幕スターのヴィヴィアンヌはつきまとうパトロンを射殺し、その始末を幼なじみで昔の恋人だった小説家志望のオジェに頼む。が、発覚して彼は犯人として刑務所に。
 ヴィヴィアンヌはオジェを見捨てて、自分のファンの大臣ボーフォールとともにパリからボルドーに逃れる。
 オジェはヴィヴィアンヌに裏切られたことを悟り、空襲のどさくさにまぎれ、囚人ラウルと脱獄しボルドーへ。
 このふたりに物理学専攻の女子学生カミーユと彼女の師である教授が同行する。教授は秘密裡に原子爆弾を開発しているらしい。それを狙うのが英国のジャーナリストを装うドイツのスパイ。
 ボルドーの大混乱の中で登場人物たちが五目飯のように混ぜ合わされ、いい味になる。イザベル・アジャーニをはじめ、ジェラール・ドパルデュー、グレゴリ・デランジュール、ヴィルジニー・ルドワイヤンイヴァン・アタルピーター・コヨーテ、俳優たちもみな個性的。純情青年と大臣とスパイを手玉に取る悪女は果たして戦時下を乗り切るのか。
 ヴィヴィアンヌがわがままぶりを発揮し、無理やり乗せてもらう官房長官の車の後ろの席にいるのがシャルル・ドゴールというあたりもまた心憎い。戦争そのものは悲劇だが、その裏側で、こんな喜劇も繰り広げられていたのだろう。
 それにしても、イザベル・アジャーニはこの映画の当時五十歳手前。息子ほどの青年の恋人役を演じてまったく不自然さを感じさせない。というより、妖艶さが加わって、トリュフォーのアデルに出ていた二十歳の頃よりもずっと美しい。

 

ボン・ヴォヤージュ/Bon voyage
2003 フランス/公開2004
監督:ジャン=ポール・ラグノー
出演:イザベル・アジャーニジェラール・ドパルデュー、グレゴリ・デランジュール、ヴィルジニー・ルドワイヤンイヴァン・アタルピーター・コヨーテ