『映画に溺れて』第513回 オースティン・パワーズ ゴールドメンバー
第513回 オースティン・パワーズ ゴールドメンバー
平成十四年十月(2002)
大泉 Tジョイ大泉
マイク・マイヤーズが英国スパイと悪の天才の二役を演じるコメディ『オースティン・パワーズ』は三本作られ、二作目の『オースティン・パワーズ デラックス』はかなりの駄作でがっかりしたが、この第三作は出だしからいきなり笑わせてくれる。
ハイウェイをバイクで疾走する女。それを狙うヘリコプター。派手な登場でヘリを撃ち落とすオースティン・パワーズ。その顔がアップになると、なんとトム・クルーズなのだ。女が近寄りヘルメットをはずすと、グウィネス・パルトロウ。山の向こうでこれを見て指をくわえるドクター・イーブルがケビン・スペイシー。横で機関銃をぶっぱなすイーブルのミニクローンがダニー・デビート。大物スターによる配役はいったいどういうわけか。そこに「カット」の声。ハリウッドの撮影所でオースティン・パワーズが映画化されているという設定。それを見学するオースティン。監督に卑屈に笑いかけながらも一言。それをはねつける監督がスティーヴン・スピルバーグ本人。
この贅沢なオープニングから、ミュージカル風の出だしでオースティンが歌って踊る。全体としてはタイトルの『ゴールドメンバー』でわかる通り『ゴールドフィンガー』だし、日本が出てくるのは『007は二度死ぬ』そのものだが、二作目同様の安直な悪乗り下ネタが次々と続きすぎて、一作目のセンスをなかなか超えられず。
相棒のセクシーな女性工作員がビヨンセ。オースティンの父親の大物スパイがマイケル・ケイン。一作目を観たとき、マイヤーズのオースティンとドクター・イーブルの二役に驚いたが、今回はさらに悪役ゴールドフィンガーならぬゴールドメンバーと日本の相撲アリーナでの毛深い白人の関取役までマイヤーズがこなす。この関取は二作目のイーブルの手先のスコットランド人の肥満男とほぼ同じ。
ラスト、スピルバーグによるハリウッド大作『オースティンプッシー』のプレミア上映でゴールドメンバー役を演じていたのがジョン・トラボルタ。オープニングとラストの豪華配役による遊びがなによりも面白かった。
オースティン・パワーズ ゴールドメンバー/Austin Powers in Goldmember
2002 アメリカ/公開2002
監督:ジェイ・ローチ
出演:マイク・マイヤーズ、ビヨンセ・ノウルズ、マイケル・ケイン、マイケル・ヨーク、セス・グリーン
大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第33回 修善寺
頼家の弟であり、「千幡」の呼び名であった実朝(さねとも)(嶺岸煌桜)が、北条政子(小池栄子)に、髑髏(どくろ)を見せられます。
「頼朝様は挙兵の折、この髑髏に誓われました。この命、おぬしにかけようと。すべてはこの髑髏から始まったのです。これからは、あなたが持っていなさい」
義時(小栗旬)がいいます。
「上に立つ者の、証(あかし)でございます」
その頃、伊豆の修善寺(しゅぜんじ)では、元の鎌倉殿である、頼家が酒を飲んで荒れています。
「鎌倉殿は、このわしじゃ」
と、叫んでいました。
建仁三年(1203)十月九日。実朝の、政務開始の儀式、政所(まんどころ)始め、が行われました。取り仕切ったのは、執権別当となった、北条時政(坂東彌十郎)です。「執権別当」とは、行政の筆頭人を意味し、時政が、実質的な政治指導者となったことを示しています。
時政は書庫で、御家人たちに、新しい鎌倉殿に忠誠を誓う「起請文(きしょうもん)」を書かせることを提案します。さらに比企の領地であった武蔵を、自分が武蔵守(むさしのかみ)となって、治めることを宣言します。それを朝廷に願い出ることを命じます。
りく(宮沢りえ)は時政と酒を酌み交わし、上機嫌です。
「よい具合、よい具合」
と、酒を飲み干します。時政はりくに酒を注(つ)ぎます。
「お前のいうとおりに、運んでおるぞ」
「執権殿」
と、呼びかける、りくに、時政はおどけて
「はい」
と、返事をするのです。
「これで名実ともに、御家人の頂(いただ)きに立たれましたね。執権というのは、代々北条が引き継ぐんですよね。では次は政範(まさのり)が」
「気が早いのう。少しはわしにやらせてくれ」
二人は和やかに夜を過ごすのでした。
都では、後鳥羽上皇(尾上松也)が僧の慈円(山寺宏一)に話しています。
「鎌倉は、実朝の正室を都より差し出せといってきおった」
誰の考えだ。と後鳥羽上皇は、りくの娘婿である平賀朝雅(山中崇)を問い詰めます。何とかごまかそうとしていた平賀でしたが、時政の考えだと白状してします。後鳥羽上皇は顔をしかめます。
「身の程知らずの、田舎者め。まあよい。わしは実朝の名付け親じゃ。ひと肌脱いでやってもよいぞ。わが血筋に近い者から選ぼう」
平賀朝雅を去らせると、後鳥羽上皇はある人物を招き入れます。その者はいいます。
「比企を滅ぼしたのは北条の謀略。何としても頼家殿から、実朝殿へ代替わりさせたかったようです」
「源氏はわが忠臣。その棟梁(とうりょう)の座を、坂東の田舎侍に良いようにされるなどもってのほか」
「いっそ、北条を潰されますか」
「実朝は大事な駒(こま)じゃ。奴らに取り込まれぬよう導くのじゃ。鎌倉へ下れ」
「かしこまりました」
頼家から鎌倉に文(ふみ)が届いています。義時が書庫にて、皆に内容を披露します。一つには、退屈でたまらないので近習が欲しい。二つには、安達景盛の身柄をよこせ、というものでした。安達景盛については、頼家はその妻を手に入れようとして、果たせないでいました。その身柄を討ち取ろうというのです。二つの要求を、捨て置くことにします。義時がいいます。
「つまり頼家様は、ご自分がまだ鎌倉殿だということを、お示しになりたいのだ」
三浦義村(山本耕史)が、使者として、頼家のもとにやって来ます。三浦は「せつ」「一幡」と書いた紙が飾られているのを目にします。
「別に腹は立ててはおらん」と、頼家はいいます。「はなから受け入れられるとは思っていなかった。わしを忘れぬように、こうしてたまに喧嘩を売ってやる」
三浦はいいます。
「執権殿にそうお伝えいたします。では、これで」
「善哉(ぜんざい)はどうしておる。つつじは」
「鶴岡八幡宮の別当が、面倒を見てくれています」三浦は頼家を振り返ります。「お変わりございませんので、ご心配なく」
行こうとする三浦を、またしても頼家は呼び止めます。
「平六(へいろく)。わが父、源頼朝は、石橋山(いしばしやま)の戦いで敗れてから、わずかひと月半で、大軍を率いて鎌倉へ乗り込んだ。わしは必ず鎌倉へ戻ると、そう奴らに伝えよ。軍勢を率い、鎌倉を火の海にし、北条の者どもの首をはねる。覚悟して待っていろとな」
三浦は振り向きもしません。
「その通り、お伝えいたします」
「このままここで朽ち果てるつもりはない。忘れるな。鎌倉殿はこのわしだ」
三浦は振り返って頼家に歩み寄ります。
「確かに。この先、何十年、猿楽くらいしか慰(なぐさ)めもないまま暮らすことを考えれば、華々しく散るのも、悪くはないかもしれません。おやりなさい」
「力を貸してくれ」
「お断りいたします」
頼家の言葉が、鎌倉で報告されます。
「挙兵されると思うか」
と、義時は三浦にたずねます。
「いってるだけだろ。兵が集まらない」
「しかし鎌倉に対する恨みは強うございます。早めに手を打たれることを、おすすめします」
「曲がりなりにも先の鎌倉殿にございます」
「それが何か」
と、大江が問います。
「いいにくいなら俺がいってやるよ」と、八田知家(市原隼人)。「鎌倉殿は二人いらねえ」
ため息をつく義時に、時政がいいます。
「やるか」
「頼朝様の、実のお子でございますぞ」
時政は大声を出します。
「そなことは、分かっている。わしの孫じゃ。お生まれになったときのことだって、しっかり目ん玉の裏に残ってるわ。わしだって、つれえんじゃ」
「小四郎殿」
と、大江が義時に意見を求めます。
「ここは様子を見る」と、義時は宣言します。「不審な動きがあれば、そのときはわれらも覚悟を決めましょう」
建仁四年(1204)正月。実朝の、読書始めの儀式が行われます。儒学の講義を行ったのは、後鳥羽上皇に招き入れられていた、源仲章(みなもとのなかあきら)(生田斗真)でした。
北条政子にいわれ、三善康信が実朝に和歌を教えています。三善の教えは、韻律に乗せ、花鳥風月を感じるままに詠(よ)むというものでした。そこへ実衣(宮澤エマ)に呼ばれ、源仲章がやってくるのです。
「鎌倉殿。今のはお忘れください」と、仲章はいい放ちます。「和歌とは、気の向くままに詠むものなどではございません。帝(みかど)が、代々、詠みついでこられたもの。帝のお望みの世の姿、ありがたいお考えが、そこにある。それを知らねば、学んだことにはなりません」
実朝の乳母(めのと)である美羽がいいます。
「和歌は、政(まつりごと)には欠かせぬものなんですって。ですよね」
実衣は仲章を振り返ります。仲章それを受けていいます。
「さよう。和歌に長ずるものが、国を動かします」
「しっかり学んでくださいませ」
と、実衣は実朝にいいきかせるのでした。
「よもやとは思いますが、都と通じておるのでは」
義時がいいます。
「軽はずみなことをいうべきではない」
そこへ八田知家がやって来ます。
「修善寺で、猿楽師の一人を捕えた。京へ向かおうとしていた。こんなものを」
八田は扇(おうぎ)に書かれた文章を皆に見せます。頼家は上皇に、北条追討の院宣(いんぜん)を願い出ようとしていました。時政がいいます。
「決まりのようだな」
皆が黙り込みます。義時が口を切ります。
「頼家様を、討ち取る」
義時は息子の泰時(坂口健太郎)と話します。
「なりませぬ」
と、泰時はいいます。
「これは謀反だ」
と、義時ははねつけます。義時の異母弟である時房(瀬戸康史)がいいます。
「頼家様の後ろには上皇様がいる。このままここでは大きないくさになる。今のうちに火種を消しておくんだ」
義時がいいます。
「上皇様は北条をお認めにはならんだろう」
泰時が聞きます。
「なにゆえ」
「あのお方からしてみれば、われらは一介の御家人。源氏を差し置いて全国の武士に指図をすることを、お許しになるはずがない」
泰時は叫びます。
「頼家様に死んで欲しくないのです」
「私も同じ思いだ」義時は泰時を見つめます。「しかしこうなった以上、ほかに道はない」
「父上は間違っている。私は承服できません」
泰時は立ち去るのでした。
義時は時房と善児(梶原善)を訪ねます。そこに兄の宗時の遺品を見つけるのです。善児が宗時を殺した証拠でした。
「善児は私が斬ります」
と、時房がいいます。
「ならぬ」と、義時は即座に反応します。「あれは必要な男だ。私に善児が責められようか」
義時は外で薪を割っている善児に呼びかけます。
「善児、仕事だ」
修善寺では、泰時が頼家に訴えていました。
「お逃げください」
「逃げはせぬ」
と、頼家は答えます。
「命を大事にしてください。生きてさえいれば、また道も開けます」
「道などない。いずれわしは殺される。座して死を待つつもりはない。最後の最後までたてついてやる。これより、京からやって来た猿楽が始まる。上皇様の肝いりだ。お前も見ていけ」
猿楽が始まります。泰時は、猿楽師の一人が、死んでいることを知るのです。泰時は刀を引き抜き、猿楽が行われている中に入り込みます。やはり善児が猿楽師の中にまぎれ込んでいました。泰時は斬りつけますが、善児にたやすくねじ伏せられてしまいます。
「あんたは殺すなといわれている」
と、善児は泰時を放し、頼家に迫ります。頼家は刀を抜いて立ち向かいます。善児は戦いの途中、一幡の文字を見つけるのです。躊躇(ちゅうちょ)する善児に隙が生まれ、頼家の反撃を許してしまいます。善児にとどめを刺そうとした頼家でしたが、背後から善児の弟子であるトウ(山本千尋)に貫かれてしまいます。
源頼家。享年二十三でした。
傷ついた善児は、草むらに潜んでいました。その背中をトウが貫きます。
「ずっとこの時を待っていた」トウは前に回って善児にいいます。「父の敵(かたき)、母の敵」
と、善児にとどめを刺すのでした。
『映画に溺れて』第512回 パリで一緒に
第512回 パリで一緒に
昭和六十三年六月(1988)
自由が丘 自由が丘武蔵野館
ウィリアム・ホールデンとオードリー・ヘプバーンが売れっ子脚本家とタイピストを演じるロマンティックコメディ。
巴里祭で賑わうパリ。ハリウッドの脚本家リチャードが新作『エッフェル塔を盗んだ娘』執筆のため滞在している。原稿清書に雇われたタイピストのガブリエルがホテルを訪ねてくる。プロデューサーとの約束の期日が二日後に迫っており、二日で完全原稿を清書しなければならない。
ガブリエルにどんなストーリーかと聞かれてリチャードは言う。アクション、サスペンス、ロマンス、コメディ、そして底辺には社会批判も。
ところが驚いたことに、出来ているのはタイトルのみ。脚本は一行も進んでいない。白紙の原稿を床に並べながら、リチャードはガブリエルに思いついたストーリーを適当に語る。
巴里祭で賑わうカフェでデートの相手を待つ若い女性ギャビー。現れたのはトニー・カーティスに似た自己陶酔型の売れない俳優モリス。急用ができたからデートはできないと去っていく。そこへ現れるのが謎の男リック。カフェの客たちが踊り出し、リックはギャビーと踊る。
リチャードが語るストーリーのリックはリチャード自身、ギャビーはガブリエルのイメージに重なる。ガブリエルと語り合い、リチャードは物語をどんどん膨らませていく。リックは嘘つきの泥棒で、大きな仕事を計画している。それにギャビーが絡む。リックの大きな仕事とリチャードの脚本執筆とがさらに重なる。
リチャードは言う。最も愛される人物はフランケンシュタインだ。人間を創造するか再生するかして、恋に落ちるか破滅する。『フランケンシュタイン』は『マイフェアレディ』と同じ話なんだ。結末が逆なだけで。
ガブリエルは考え込んではっとする。イライザが怪物なのね。映画『マイフェアレディ』のイライザはオードリー・ヘプバーンが演じていた。
パリで一緒に/Paris When It Sizzles
1964 アメリカ/公開1964
監督:リチャード・クワイン
出演:オードリー・ヘプバーン、ウィリアム・ホールデン、ノエル・カワード、グレゴワール・アスラン、トニー・カーティス
『映画に溺れて』第511回 アダプテーション
第511回 アダプテーション
スパイク・ジョーンズ監督『マルコビッチの穴』で脚本家として一躍注目されたチャーリー・カウフマンだが、撮影現場では影が薄く、ヒロイン役のキャサリン・キーナーにも無視され、関係者とみなされずスタッフにスタジオから追い出される始末。
そんな彼に美人プロデューサーから脚本の依頼がくる。題材は『蘭につかれた男』というニューヨーカー誌の記者が書いたノンフィクション。劣等感と自意識過剰で汗びっしょりになりながら、カウフマンはプロデューサーに伝える。僕の作品にはセックスも銃撃もカーチェイスも苦難を乗り越えて成長する主人公も出しません。
が、ほとんど起伏のないノンフィクションが原作では執筆は全然進まず、気晴らしにデートしても相手の女性にキスさえできず、机に向かって知り合いの女性たちを思い浮かべながらマスターベーションに耽るだけ。
チャーリーの双子の弟ドナルド・カウフマンは兄とは正反対の軽薄で調子のいい男。なにをやっても長続きせず、兄に刺激されシナリオ講座に通って『3』という犯罪ものを執筆する。なんと犯人と人質と刑事が三重人格の同一人物というとんでもない脚本。それがチャーリーの代理人に受けて、高く売れそう。ますます腐るチャーリー。
悩んでいても脚本は進まない。そこで『蘭につかれた男』の原作者ニューヨーカー誌記者のスーザンに接近しようとする。彼女は取材を通じて出会った蘭コレクターのラロシュと不倫の仲となっていた。
ドナルドとともにスーザンを追跡したチャーリーは本に書かれていない事実、スーザンとラロシュのベッドシーンを目撃、銃を持ったふたりに追われ、カーチェイスの末、ドナルドが撃たれて死亡。そしてようやく完成したのがこの映画である。という嘘と本当を混ぜ合わせたメタフィクション。クレジットの最後にもっともらしく「ドナルド・カウフマンを偲んで」と追悼の言葉が出る。ニコラス・ケイジがひとり二役で実在のチャーリー・カウフマンと架空のドナルドを楽し気に演じている。
アダプテーション/Adaptation.
2002 アメリカ/公開2003
監督:スパイク・ジョーンズ
出演:ニコラス・ケイジ、メリル・ストリープ、クリス・クーパー、ティルダ・スウィントン、ブライアン・コックス、マギー・ジレンホール、カーラ・シーモア
『映画に溺れて』第510回 キャメラを止めるな!
第510回 キャメラを止めるな!
令和四年七月(2022)
立川 キノシネマ立川
リメイクは難しい。どんなに上手に模倣しても、それはオリジナルが素晴らしいからで、たいして手柄にはならない。模倣が下手で見劣りしたり、余計なアイディアを加えて失敗したら、オリジナルファンから罵倒されることになる。
大ヒット作のリメイクの場合、オリジナルを観ているからもういいという人が多いので、興行的にもさほど成功するとは思えない。私が記憶する成功例は黒澤明の『七人の侍』をアメリカの西部劇に置き換えた『荒野の七人』であろうか。
それはさておき、二〇一八年の日本映画界の話題を独占した大ヒット作『カメラを止めるな!』がフランスでリメイクされた。
オリジナル版は映画製作現場を描いたトリュフォーの『アメリカの夜』を連想させるドラマであり、低予算B級ゾンビ映画の撮影過程で次々と発生するトラブルが笑いを生む。これがどんなフランス映画になるのだろうか。と思っていたら、最初の短編ゾンビ映画の場面からして、フランス人が演じているのに役名がみな日本名。安い、早い、出来はそこそこの監督レミーに日本のプロデューサーから仕事の依頼が舞い込むというオリジナル通りのストーリーが展開する。
監督役の俳優がメイク係役の女優と不倫で事故に遇い、急遽、監督のレミー自身が監督しながら監督役も演じ、現場に見学に来ていた監督の妻の元女優ナディアがメイク係を演じる。レミーがフランス風にアレンジした場面や登場人物の役名が日本のプロデューサーの意向で一字一句変更できなくなる。という場面などはフランス風だが、全体としてはほとんどオリジナルのままなのだ。オリジナルのアイディアの巧みさを改めて実感する。
オリジナル版『カメラを止めるな!』は監督や俳優たちがお金を出し合って作った自主映画だったが、今回のフランス版『キャメラを止めるな!』は、監督がミシェル・アザナヴィシウス、主演のレミー役がロマン・デュリス、ナディア役がベレニス・ベジョと大物ぞろい。オリジナルと見比べるのもまた映画ファンの大いなる楽しみである。
キャメラを止めるな!/Coupez!
2022 フランス/公開2022
出演:ロマン・デュリス、ベレニス・ベジョ、グレゴリー・ガドゥボワ、フィネガン・オールドフィールド、マチルダ・ルッツ、セバスティアン・シャッサーニェ
大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第32回 災いの種
北条一門が集まって、頼家(金子大地)について話しています。大江広元(栗原英雄)が報告します。
「恐ろしいばかりのご回復ぶり。まさに神仏のご加護だと、医者は申しておりました」
「医者の野郎、余計なことをしやがって」
「すべてわたくしのせいです。事を急ぎすぎました」
時政の妻の、りく(宮沢りえ)が不安を訴えます。
「この先どうなさるのですか。次の鎌倉殿は」
時政が答えます。
「頼家様が生き返ったからには……」
実衣(宮澤エマ)が時政の言葉をさえぎります。
「馬鹿なこといわないで。千幡様で話は進んでいるんですから」
政子がいいます。
「だけど、頼家は」
りくが提案します。
「ここは仏門に入っていただきましょう」
実衣もいいます。
「頭、剃っているんだし、ちょうどいいわ」
政子が声を荒げます。
「よくそんなことがいえるわね」
実衣がいい返します。
「今さら息を吹き返したって、遅いのよ」
見かねた義時(小栗旬)が大声を出します。
「少しは黙っていろ」義時は声を平静に戻し、皆にいいます。「まずは、頼家様にどう話すか」
時政がため息と共にいいます。
「怒るだろうな」時政は時房(瀬戸康史)にいいます。「お前いってくれるか」
「えっ」と、時房は眉を上げます。「頼家様が寝てらっしゃる間に、比企と身内をまとめて滅ぼしました。いえる訳ないでしょう」
政子がいいます。
「せめてもの救いは、一幡が生きていること」皆が驚くのに構わず、政子は続けます。「小四郎(義時)にお願いしたのです。あの子だけは助けてやりなさいって」
大江がいいます。
「千幡様を、征夷大将軍に任じていただくための使者は、すでに都へ発ちました。止めるなら今ですが。ご決断を」
座が静まってから、義時が話します。
「答えはとうに出ている。頼家様がすべてを知れば、北条をお許しにはならない。ここは、頼家様が息を吹き返される前に戻す。それしか道はない」
政子は義時と二人きりで話します。
「一幡を助けると誓ったではないですか」と、政子は義時を責めます。「はじめから助ける気などなかった。義高(よしたか)の時と同じ。北条は比企の敵(かたき)。生きていれば何をしでかすか分からない。だから葬(ほうむ)った。違いますか」政子は義時に平手打ちを見舞います。「あなたはわたくしの孫を殺した。頼朝様の孫を殺した」
やがて義時がいいます。
「一幡様には、いてもらっては困るのです」
「頼家も殺すつもりですか」
との政子の問いに、義時は首を振ってみせるのでした。
これまでの事情を、頼家に、政子が話すことになります。
「比企が滅んだというのですか」と、頼家は驚きます。「ということは、せつ、はもうこの世にいないということですか。一幡も。信じられません。なぜだ」
「誰もあなたが助かるとは思ってなかった」
政子は絶望した比企の一族が、みずから館に火を放ち、命を断ったと説明します。
「北条の奴らだ」と、頼家は見抜きます。「あいつらが比企の舅(しゅうと)殿を、せつを、一幡を」頼家は涙を流します。やがて立ち上がって叫びます。「北条をわしは絶対に許さん。お前もだ」
と、頼家は政子を指さすのでした。
その頃、京都では、後鳥羽上皇(ごとばじょうこう)(尾上松也)が、頼家危篤(きとく)の知らせを受け取っていました。弟に後を継がせ、征夷大将軍に任じて欲しいと文書(もんじょ)にあります。
「どう思う」
と、後鳥羽上皇は、僧の慈円(じえん)(山寺宏一)に聞きます。夢を見ました、と、慈円は話し始めます。壇ノ浦に沈んだ三種の神器の、宝剣の代わりが、武家の棟梁、鎌倉の将軍だと。後鳥羽上皇は、一幡が同時に元服するとの一文を見つけます。自分が名付け親になることを思いつくのです。後白河上皇は「実朝(さねとも)」の名を贈るのでした。
頼家は比企の館を前にします。完全に焼け落ちたそれを確認するのでした。
頼家は和田義盛(横田栄司)と、仁田忠常(高岸宏行)を呼び出し、北条時政の首をとってこいと命じます。
和田は悩んだ末、それを時政に伝えます。
りくが時政に訴えます。
「このままでは、ゆっくり眠ることもできませぬ。いつ頼家の息のかかった連中が、押し寄せてくるかも知れないではないですか」りくはいい放ちます。「ここは死んでいただきましょう」
さすがの時政も振り返ります。
「怖いことを申すな」
「もともと死んでいたのです。元の形に戻すだけ」
「無理をいうな」
「あのお方がいる限り、必ず災いの種となります。千幡様のため、北条のため、私のために腹をくくってください」
仁田忠常が、義時に相談があると待っていました。義時は、急いで館に戻らなければならない、またにしてくれと断ります。
館に戻った義時は、息子の泰時(坂口健太郎)から、一幡が死んでいないことを伝えられるのです。
館を出ようとする義時は、妻の比奈(堀田真由)に、離縁してくれるように求められます。比企の滅んだ今、比奈の居場所はありません。
「すまない」
と、義時は比奈を抱きしめるのでした。比奈は鎌倉を去り、四年後、京で生涯を終えたと記録にあります。
義時は善児(梶原善)を訪ねていました。そこに一幡がいたのです。
「あれは生きていてはいけない命だ」
と、義時はいいます。
「できねえ」善児は首を振ります。「わしを、好いてくれている」
善児は刃物を持ち、一幡に近づきます。しかし一幡の笑顔を見て立ち止まるのです。善児を追い越し、短刀を隠した義時が一幡に寄ろうとします。善児の後継者であるトウ(山本千尋)が、一幡を違う遊びに連れて行きます。
帰って来た義時は、仁田忠常が死んだことを知らされます。その死体を前にし、
「なぜだ」
と、つぶやきます。
義時は頼家と話します。
「頼家様の、軽々しい一言が、忠義にあつい真(まこと)の坂東武者を、この世から消してしまわれたのです」
頼家はいいます。
「わしが悪いようにいうな。もともとは北条が……」
「もちろん、そうでございます。しかしよろしいですか。頼家様のお気持ちが変らぬ限り、同じことがまた繰り返されるのです。お分かりいただきたい」
義時は政子たちと話します。
「やはり、頼家様には鎌倉を離れていただくしかない」
政子が聞きます。
「どこへ追いやるのです」
時房が答えます。
「伊豆の修善寺で、仏の道を究(きわ)めていただきます」
義時が続けます。
「頼家様ご自身のためを思えば、これが最善」
政子がいいます。
「本当に、あの子のためになるのですか」
時政が発言します。
「鎌倉におって、目の前で千幡が、鎌倉殿になるのを見るのはつらかろう。それが一番だと思うぞ」
嫌がる頼家に、
「御家人一同の総意にございます」
と、大江広元が宣言します。三浦義村(山本耕史)と和田義盛が左右をつかみ、頼家を連れ出します。頼家は二人を振り払って倒れ、子供のように泣きじゃくるのでした。
建仁三年(1202)十月八日。千幡の元服の儀式が盛大に行われます。
一方、頼家は、鎌倉を離れ、伊豆の修善寺へと送られました。
居並んだ御家人たちが、千幡に頭を下げます。
「よろしく頼む」
と、千幡は声を掛けます。新たな鎌倉殿、三代将軍源実朝の誕生でした。
頼家の子である善哉(ぜんざい)に、老婆が声を掛けます。それは頼朝の乳母(めのと)であった、比企尼(ひきのあま)(草笛光子)でした。
「北条を、許してはなりませぬぞ。あなたの父を追いやり、あなたの兄を殺した、北条を。あなたこそが、次の鎌倉殿になるべきお方。それを阻(はば)んだのは、北条時政。義時。そして、政子。あの者たちを決して許してはなりませぬぞ。北条を、許してはなりませぬ」
『映画に溺れて』第509回 バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー
第509回 バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー
令和四年七月(2022)
吉祥寺 アップリンク吉祥寺
バットマンではなく、バッドマンである。
DCやマーベルのアメリカンコミックを意識したパロディではあるが、フランス映画なのでひねりがあり、下ネタもけっこう多い。
主人公は売れない俳優のセドリック。夢は有名になって父を喜ばせること。が、今までの大きな仕事といえばコンドームのTVコマーシャルに出ただけ。そのコマーシャルを製作した女性プロデューサーが彼に映画主演の話を持ってくる。
黒いレザースーツの謎のヒーローが白塗りの悪人ピエロと戦うというもの。バットマンですか。いいえ、バッドマンよ。が、ほとんどバットマン。
運よく主演に決まり、悪友たちの祝福を受けながら、セドリックは体を鍛え、仕事に臨む。ピエロ役の元大物スターに見下されながらも撮影は順調に進むが、休憩中に妹から電話が入る。警察署長をしている父が事故で入院したとの知らせ。セドリックはとっさに衣装のままスタジオのバッドモービルに飛び乗り、病院を目指すが、スピードを出しすぎて銀行のATMに激突。
事故で記憶を失ったセドリックは着ている衣装や車の中にある小道具から、自分がヒーローであると思い込み、映画の筋書きで悪の組織に監禁されている設定の妻と息子を救うためピエロの屋敷を目指す。
兵士あがりの妹がセドリックの駄目な悪友ふたりを引き連れて、兄の行方を追う。
これに警察署長の父や本物の凶悪強盗やハリウッドスターも絡み、ドタバタから下ネタ、本格的なアクションもあって、約束通りのハッピーエンド。
セドリックの父親の警察署長を演じているのが、かつての二枚目、ジャン=ユーグ・アングラードだった。
バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー/Super-heros malgre lui
2021 フランス・ベルギー/公開2022
監督:フィリップ・ラショー
出演:ジュリアン・アルッティ、タレク・ブダリ、エロディ・フォンタン、アリス・デュフォア、ジャン=ユーグ・アングラード、アムール・ワケド
大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第31回 諦めの悪い男
比企能員(佐藤二朗)、北条時政(坂東彌十郎)らが、源頼家の容体について聞きます。息はしているのか
「頼朝様の時と同じです」
書庫で比企能員が話します。
「一幡(いちまん)様に鎌倉殿になっていただくためには、朝廷のお許しがいるのだったな」
「日本国総守護に任じていただきます」
「さっそく朝廷に願い出よ」
という比企に、義時(小栗旬)が声を掛けます。
「鎌倉殿は亡くなると決まったわけではありません」
比企はいいます。
「鎌倉殿が助かる見込みは、百に一つじゃ」比企能員は宣言します。「一幡様を跡継ぎにというのは、鎌倉殿のご意志である」
この時点で、次の鎌倉殿になる可能性のあるのは、頼家の弟、千幡(せんまん)。頼家の子である、一幡と善哉(ぜんざい)の三人です。一幡には比企が、善哉には三浦が、千幡には北条が、それぞれ乳母(めのと)としてついています。
義時は比企能員を渡り廊下で呼び止めます。
「思い通りには、決してさせん」
比企はにこやかな表情で話します。
「鎌倉殿が一日も早く、お元気になられるのを祈るばかりじゃのう」
北条の一族が集まります。時政がいいます。
「すぐに比企の館へ攻め込もうぜ」
「お待ちください。比企は、いくさ支度を整えていると聞きます。今、攻め込めば、大きないくさになります」
義時もいいます。
「鎌倉を火の海にすることだけは避けたい。比企は、一幡様を、次の鎌倉殿にしようとしている。まずはこれを止める」義時は皆にいいます。「千幡様は元服されても良いお歳。御家人たちも納得する。それがかなわなかった時、初めて兵を用いる。父上、畠山殿、戦う支度はしておいてください」
話し合いが終わった後、義時は時政の妻のりく(宮沢りえ)に呼び止められます。
「比企を滅ぼすとして、そなたはどうするのですか。幼い千幡様に、政(まつりごと)が務まりますか。あなたがやるのですか。北条の総領(そうりょう)は、我が夫。お忘れになりませぬよう」
義時はりくを振り返ります。
「正直なところをうかがいます。母上は、父上に政(まつりごと)が務まるとお考えでしょうか」
「もちろん。あなたは何も分かっていない。私は我が夫の器を信じています」
義時は書庫で、大江広元などもいる中、比企能員に呼びかけます。
「提案がござる。鎌倉殿のお役目を、千幡様と一幡様で、二つに分けるというのは」義時の息子の泰時(坂口健太郎)が地図を広げます。「関東二十八カ国の御家人を、一幡様に。関西三十八カ国の御家人を、千幡様に仕えさせます」
比企能員は笑顔で地図を破ってからいいます。
「鎌倉殿は一幡様、ただお一人」
「比企殿が受け入れるとは、とても思えませんでした。それはあなたも同じはず」
義時ははいいます。
「やれることはやりました。方々(かたがた)、拒(こば)んだのは向こうでござる」
帰りの渡り廊下で、義時は息子の泰時に語ります。
「これで大義名分が立った。比企を滅ぼす」
八月末日。容体の戻らない頼家が、床の上で出家します。
「一つだけお願い」と、政子が横に座る義時にいいます。「一幡の命は助けてあげて。頼朝様の血を引くものを殺(あや)めるなんて、あってはなりません」
「一幡様には」義時は政子を見ようともしません。「仏門に入っていただきます」
「誓いなさい」
「誓います」
しかし義時は泰時にいうのです。
「太郎。いくさになったら、真っ先に一幡様を殺せ。生きていれば、必ず禍(わざわい)の種となる。母親ともども」
義時は父の時政と話します。
「千幡様はまだ幼い。鎌倉を率いていくのは北条ということになります。率直におうかがいします。父上にその……」
時政は義時に続けさせずにいいます。
「その覚悟はあるかってことだな。あるよ。りくから聞いておる。あれは誰よりわしのことを分かっておる。そのりくが申しておるのだから、なんとかなるよ」
「父上の本心をおたずねしています」
「わしには、大事にしているものが三つある。伊豆の地と、りくと、息子たちと娘たちじゃ。その三つを死に物狂いで守る。それがわしの天命じゃ。この先は、北条を守り抜いてみせる。鎌倉のてっぺんに立って、北条の世をつくってみせる。ああ、やってやるよ。もちろん、頼朝様みてえに、細かい目配りはできねえ」時政は義時の前に座ります。「おまえの力も借りることになるだろうが、いいか」
「もちろんでございます」
「まずは比企討伐じゃ」
「その前に」
「なんだ」
「もう一度だけ、能員殿と話してみようと思います」
「おめーも、諦(あきら)めの悪い男だな。よっしゃ、その役目、わしが引き受けよう。お前じゃ、もう、らちがあかねえ。向こうが承知すれば御の字。かなわなければ」
父子はうなずき合うのでした。
比企能員が、執務室に一人座っています。時政はその隣に立ちます。能員の方から話しかけて来るのです。
「実はいまだに、悔やんでいることがあってな。頼朝様の挙兵を聞いたとき、わしは様子を見た。あの時、比企が加わっていたら、頼朝様は石橋山で勝っておられたかもしれん。さすればわしは、北条より、もっと上に立てたかもしれん。おかげでずいぶんと、遠回りをしてしまった」比企能員は時政を見上げます。「よく見切ったなあ」
時政は比企能員の隣に腰を下ろします。
「わしは源頼朝という男を信じておった。この婿は、いずれでかいことを成し遂げる」
「たいしたものだ」
と、比企能員が感心します。時政が向き直ります。
「ここらで手を打たんか。小四郎の考えた案を受け入れてくれ」
「断る」
「もう御家人同士のいくさはたくさんなんじゃ」
「それはこちらも同じ。しかし、あれはいかん」
「頼む」
「泣き落としが通じるはずもなかろう」比企能員は顔をそらします。「これ以上話すことはなさそうだな」
「そのようだな」
立ち去ろうとする比企能員に、時政は声を掛けます。
「一ついいことを教えてやろう。悔やむ事なんざ何一つねえぞ。あの時お前が加勢したところで、頼朝様は、負けておったわ」
時政は義時の所に行き、
「手はずを聞かせてくれ」
というのでした。
建仁三年(1203)九月二日。
比企能員の所へ、時政から和議を求める文(ふみ)が送られてきます。比企能員は、一人で時政の館に出かけていこうとします。
「軍勢が来たと思われれば、その場でいくさになりかねん。時政も坂東武者。太刀も持たぬ者を殺せば、末代までの恥となることぐらい、分かっておる」比企能員は妻におどけていいます。「肝の据(す)わったところを見せてやる」
比企能員は、時政の館を案内されます。
「どうぞ」
と、仁田常忠(高岸宏行)に促されて入った先に、鎧を着込んだ時政がいたのです。
「待っておったぞ、能員」
そういう時政に対して、比企能員は苦笑して見せます。
「何のつもりじゃ」
義時をはじめとする、鎧武者たちが部屋に走り込んできます。比企能員はいいます。
「見て分からんか。丸腰じゃ」
「そのようだな」
と、時政はとぼけた声を出します。
「お前も坂東武者の端くれならば、わしを斬ればどうなるか」
「お前さんは、坂東生まれじゃねえから、分からねえだろうが」時政は平然といってのけます。「坂東武者ってのはな、勝つためには何でもするんだ。名前に傷がつくぐれえ、屁でもねえさ」
義時が比企のまわりを回ります。
「比企能員。謀反の罪で、討ち取る」
義時から太刀を受け取った仁田忠常が、斬りかかります。しかし比企能員は庭に逃亡するのです。しかしついには北条の兵に取り押さえられます。実は比企能員は鎧を着込んでいたのでした。時政が比企能員に近づきます。
「その思い切りの悪さが、わしらの命運を分けたんじゃ。北条は挙兵に加わり、比企は二の足を踏んだ」
「わが比企一門を」比企能員は叫びます。「取るに足らん伊豆の獣と一緒にするな」
「やれ」
と、義時は仁田忠常に命じます。仁田は比企能員の首に、刃を差し込むのでした。
北条一族と、それに味方する御家人たちは、比企の館に討ち入ります。比企能員の娘、せつ(山谷花純)は、その子、一幡と共に逃げようとしますが、善児(梶原善)の後継者であるトウ(山本千尋)に刺されます。善児も一幡に近づくのでした。
義時の所に、異母弟の、北条時房(時連から改名)(瀬戸康司)がやって来ます。
「すべて終わりました」
義時は北条政子を前にしていました。
「千幡様に鎌倉殿になっていただく沙汰(さた)をすすめます」
立ち上がろうとする義時に、政子がいいます。
「一幡は無事なのですね」
義時はまた座ります。
「生きていると分かれば、担ぎ上げようとする輩(やから)が現れないとも限らない。今は、行方知れずということにしてあります」
「これで良かったのですね」
「良かったかどうかは分かりません。しかし、これしか道はありませんでした」
義時は政子の前から立ち去ります。
義時は兄の宗時(片岡愛之助)の言葉を思い出します。
「小四郎。俺はこの坂東を、俺たちだけのものにしたいんだ。坂東武者の世をつくる。そして、そのてっぺんに北条が立つ」
正式な形で、時政は北条政子に報告をします。
「鎌倉をわがものにしようとした比企能員でございましたが、わが北条の手により、一族郎党、すべて討ち取りましてございます」
「ご苦労でした」
と、政子は声を掛けます。義時が発言します。
「残念ながら、一幡様はいまだ行方知れず。新たな鎌倉殿は、千幡様にお願いすることになりました。北条殿(時政)には、将軍後後見人になっていただきます。千幡様をお助けし、この後(のち)は、北条殿が政(まつりごと)を行います」
そこへ知らせが入るのです。頼家が意識を取り戻しました。
皆が訪れると、頼家は床から起き上がっています。
「ずいぶん寝た気がする。すぐにでも一幡に会いたい。せつを呼んでくれ。頭がぼんやりする」
そして頼家は、自分のそり上げられた頭に気付くのでした。
『映画に溺れて』第508回 スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
第508回 スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
令和四年一月(2022)
立川 TOHOシネマズ立川立飛
スーパーマン、バットマン、スパイダーマン、DCやマーベルの人気コミックは昔からTVや映画で何度も繰り返し映像化されている。
近年でも人気キャラクターはシリーズ化され、さらに主演俳優を替えて新シリーズが作られる。
一九六〇年代にコミックとして登場したスパイダーマンは、TVアニメやTVドラマになり、今世紀になってトビー・マグワイヤ主演の第一シリーズが三作、アンドリュー・ガーフィールド主演の第二シリーズが二作、そしてトム・ホランド主演の第三シリーズが三作作られた。その第三シリーズの三作目が『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』なのである。
トム・ホランドのスパイダーマンはその前にマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のアベンジャーシリーズに参加しているため、『スパイダーマン』第三シリーズには他のマーベルヒーロー、アイアンマンやドクター・ストレンジが絡んでくる。
前作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』のラストシーンでスパイダーマンであることが世間に暴露されたピーター・パーカーはドクター・ストレンジを訪ね、魔法で人々の記憶からスパイダーマンの正体の記憶を消してほしいと依頼する。
渋々承知したストレンジが呪文をとなえている間に、ピーターが何度も横やりを入れるので、魔術が失敗して時空が歪み、別の次元が現実世界に紛れ込む。
そこに出現するのが、第一シリーズのグリーンゴブリン、ドクターオクトパス、サンドマン、第二シリーズのリザード、エレクトロといった悪役たち。さらに驚くべきは、トビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドの初代、二代目のスパイダーマンさえ時空の歪みから出現。ここまでくると、このなんでもありのごった煮感こそが、究極のパロディではないかと思ってしまう。よくぞここまで遊んでくれたと喜ぶファンは多いだろう。
スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム/Spider-Man: No Way Home
2021 アメリカ/公開2022
監督:ジョン・ワッツ
出演:トム・ホランド、ゼンデイヤ、ベネディクト・カンバーバッチ、ジェイコブ・バタロン、ジョン・ファヴロー、ジェイミー・フォックス、ウィレム・デフォー、アルフレッド・モリーナ、マリサ・トメイ、アンドリュー・ガーフィールド、トビー・マグワイア
『映画に溺れて』第507回 大怪獣のあとしまつ
第507回 大怪獣のあとしまつ
令和四年二月(2022)
立川 TOHOシネマズ立川立飛
以前、ハヤカワ文庫から『キング・コングのライヴァルたち』と題するパロディ集が翻訳され、その中にフィリップ・ホセ・ファーマーの『キング・コング墜落のあと』という短編が収録されていた。ある老人が孫娘とTVで昔の映画『キング・コング』を見ていて、四十年以上前にエンパイヤステートビルから落下したキング・コングを現場で目撃したことを回想する。道路をふさぐコングの死体について、衛生局、警察、興行師、空軍、運輸省、劇場側などで様々な意見や要求が出て、ようやく交通妨害になるとの理由で片付けられた。
『大怪獣のあとしまつ』を観て、真っ先に思いだしたのがこの短編だった。
私が子供の頃、一九六〇年代は怪獣映画の全盛期で、東宝は次々とゴジラの新作を作り、大映はガメラをシリーズ化し、TVではウルトラマンが毎週、怪獣たちと戦っていた。ゴジラはシリーズなので簡単には退治されないが、ウルトラマンは毎回、怪獣を倒して終わる。が、終わったあと、その死体をどうするのかなどとは、考えもしなかった。体長八メートルのコングと違い、怪獣たちはどれも恐ろしく巨大なのだ。
そこに目をつけたのが『大怪獣のあとしまつ』である。監督が『転々』や『インスタント沼』の三木聡なので、遊び心満載。大臣たちが延々と会議を続けるのはシン・ゴジラだし、だれも責任を取りたがらず死体処理の担当がなかなか決まらなかったり、会議の結果、怪獣に付けられた名前「希望」を新元号のようにものものしく発表したり。大臣を演じるのが西田敏行、ふせえり、岩松了、嶋田久作、笹野高史といったアクの強い面々。設定からしてパロディであり、コメディである。東宝の怪獣映画やウルトラマンやウルトラQやマタンゴまで入っている。果たして怪獣の死体は始末されるのか。
この映画の少しあとに『シン・ウルトラマン』が公開されたが、『大怪獣のあとしまつ』で国防大臣だった岩松了が防衛大臣を続投、外務大臣だった嶋田久作が首相に出世していた。
大怪獣のあとしまつ
2022
監督:三木聡
出演:山田涼介、土屋太鳳、濱田岳、眞島秀和、ふせえり、六角精児、矢柴俊博、有薗芳記、SUMIRE、笠兼三、MEGUMI、岩松了、田中要次、銀粉蝶、嶋田久作、笹野高史、菊地凛子、二階堂ふみ、染谷将太、松重豊、オダギリジョー、西田敏行