大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第31回 諦めの悪い男
比企能員(佐藤二朗)、北条時政(坂東彌十郎)らが、源頼家の容体について聞きます。息はしているのか
「頼朝様の時と同じです」
書庫で比企能員が話します。
「一幡(いちまん)様に鎌倉殿になっていただくためには、朝廷のお許しがいるのだったな」
「日本国総守護に任じていただきます」
「さっそく朝廷に願い出よ」
という比企に、義時(小栗旬)が声を掛けます。
「鎌倉殿は亡くなると決まったわけではありません」
比企はいいます。
「鎌倉殿が助かる見込みは、百に一つじゃ」比企能員は宣言します。「一幡様を跡継ぎにというのは、鎌倉殿のご意志である」
この時点で、次の鎌倉殿になる可能性のあるのは、頼家の弟、千幡(せんまん)。頼家の子である、一幡と善哉(ぜんざい)の三人です。一幡には比企が、善哉には三浦が、千幡には北条が、それぞれ乳母(めのと)としてついています。
義時は比企能員を渡り廊下で呼び止めます。
「思い通りには、決してさせん」
比企はにこやかな表情で話します。
「鎌倉殿が一日も早く、お元気になられるのを祈るばかりじゃのう」
北条の一族が集まります。時政がいいます。
「すぐに比企の館へ攻め込もうぜ」
「お待ちください。比企は、いくさ支度を整えていると聞きます。今、攻め込めば、大きないくさになります」
義時もいいます。
「鎌倉を火の海にすることだけは避けたい。比企は、一幡様を、次の鎌倉殿にしようとしている。まずはこれを止める」義時は皆にいいます。「千幡様は元服されても良いお歳。御家人たちも納得する。それがかなわなかった時、初めて兵を用いる。父上、畠山殿、戦う支度はしておいてください」
話し合いが終わった後、義時は時政の妻のりく(宮沢りえ)に呼び止められます。
「比企を滅ぼすとして、そなたはどうするのですか。幼い千幡様に、政(まつりごと)が務まりますか。あなたがやるのですか。北条の総領(そうりょう)は、我が夫。お忘れになりませぬよう」
義時はりくを振り返ります。
「正直なところをうかがいます。母上は、父上に政(まつりごと)が務まるとお考えでしょうか」
「もちろん。あなたは何も分かっていない。私は我が夫の器を信じています」
義時は書庫で、大江広元などもいる中、比企能員に呼びかけます。
「提案がござる。鎌倉殿のお役目を、千幡様と一幡様で、二つに分けるというのは」義時の息子の泰時(坂口健太郎)が地図を広げます。「関東二十八カ国の御家人を、一幡様に。関西三十八カ国の御家人を、千幡様に仕えさせます」
比企能員は笑顔で地図を破ってからいいます。
「鎌倉殿は一幡様、ただお一人」
「比企殿が受け入れるとは、とても思えませんでした。それはあなたも同じはず」
義時ははいいます。
「やれることはやりました。方々(かたがた)、拒(こば)んだのは向こうでござる」
帰りの渡り廊下で、義時は息子の泰時に語ります。
「これで大義名分が立った。比企を滅ぼす」
八月末日。容体の戻らない頼家が、床の上で出家します。
「一つだけお願い」と、政子が横に座る義時にいいます。「一幡の命は助けてあげて。頼朝様の血を引くものを殺(あや)めるなんて、あってはなりません」
「一幡様には」義時は政子を見ようともしません。「仏門に入っていただきます」
「誓いなさい」
「誓います」
しかし義時は泰時にいうのです。
「太郎。いくさになったら、真っ先に一幡様を殺せ。生きていれば、必ず禍(わざわい)の種となる。母親ともども」
義時は父の時政と話します。
「千幡様はまだ幼い。鎌倉を率いていくのは北条ということになります。率直におうかがいします。父上にその……」
時政は義時に続けさせずにいいます。
「その覚悟はあるかってことだな。あるよ。りくから聞いておる。あれは誰よりわしのことを分かっておる。そのりくが申しておるのだから、なんとかなるよ」
「父上の本心をおたずねしています」
「わしには、大事にしているものが三つある。伊豆の地と、りくと、息子たちと娘たちじゃ。その三つを死に物狂いで守る。それがわしの天命じゃ。この先は、北条を守り抜いてみせる。鎌倉のてっぺんに立って、北条の世をつくってみせる。ああ、やってやるよ。もちろん、頼朝様みてえに、細かい目配りはできねえ」時政は義時の前に座ります。「おまえの力も借りることになるだろうが、いいか」
「もちろんでございます」
「まずは比企討伐じゃ」
「その前に」
「なんだ」
「もう一度だけ、能員殿と話してみようと思います」
「おめーも、諦(あきら)めの悪い男だな。よっしゃ、その役目、わしが引き受けよう。お前じゃ、もう、らちがあかねえ。向こうが承知すれば御の字。かなわなければ」
父子はうなずき合うのでした。
比企能員が、執務室に一人座っています。時政はその隣に立ちます。能員の方から話しかけて来るのです。
「実はいまだに、悔やんでいることがあってな。頼朝様の挙兵を聞いたとき、わしは様子を見た。あの時、比企が加わっていたら、頼朝様は石橋山で勝っておられたかもしれん。さすればわしは、北条より、もっと上に立てたかもしれん。おかげでずいぶんと、遠回りをしてしまった」比企能員は時政を見上げます。「よく見切ったなあ」
時政は比企能員の隣に腰を下ろします。
「わしは源頼朝という男を信じておった。この婿は、いずれでかいことを成し遂げる」
「たいしたものだ」
と、比企能員が感心します。時政が向き直ります。
「ここらで手を打たんか。小四郎の考えた案を受け入れてくれ」
「断る」
「もう御家人同士のいくさはたくさんなんじゃ」
「それはこちらも同じ。しかし、あれはいかん」
「頼む」
「泣き落としが通じるはずもなかろう」比企能員は顔をそらします。「これ以上話すことはなさそうだな」
「そのようだな」
立ち去ろうとする比企能員に、時政は声を掛けます。
「一ついいことを教えてやろう。悔やむ事なんざ何一つねえぞ。あの時お前が加勢したところで、頼朝様は、負けておったわ」
時政は義時の所に行き、
「手はずを聞かせてくれ」
というのでした。
建仁三年(1203)九月二日。
比企能員の所へ、時政から和議を求める文(ふみ)が送られてきます。比企能員は、一人で時政の館に出かけていこうとします。
「軍勢が来たと思われれば、その場でいくさになりかねん。時政も坂東武者。太刀も持たぬ者を殺せば、末代までの恥となることぐらい、分かっておる」比企能員は妻におどけていいます。「肝の据(す)わったところを見せてやる」
比企能員は、時政の館を案内されます。
「どうぞ」
と、仁田常忠(高岸宏行)に促されて入った先に、鎧を着込んだ時政がいたのです。
「待っておったぞ、能員」
そういう時政に対して、比企能員は苦笑して見せます。
「何のつもりじゃ」
義時をはじめとする、鎧武者たちが部屋に走り込んできます。比企能員はいいます。
「見て分からんか。丸腰じゃ」
「そのようだな」
と、時政はとぼけた声を出します。
「お前も坂東武者の端くれならば、わしを斬ればどうなるか」
「お前さんは、坂東生まれじゃねえから、分からねえだろうが」時政は平然といってのけます。「坂東武者ってのはな、勝つためには何でもするんだ。名前に傷がつくぐれえ、屁でもねえさ」
義時が比企のまわりを回ります。
「比企能員。謀反の罪で、討ち取る」
義時から太刀を受け取った仁田忠常が、斬りかかります。しかし比企能員は庭に逃亡するのです。しかしついには北条の兵に取り押さえられます。実は比企能員は鎧を着込んでいたのでした。時政が比企能員に近づきます。
「その思い切りの悪さが、わしらの命運を分けたんじゃ。北条は挙兵に加わり、比企は二の足を踏んだ」
「わが比企一門を」比企能員は叫びます。「取るに足らん伊豆の獣と一緒にするな」
「やれ」
と、義時は仁田忠常に命じます。仁田は比企能員の首に、刃を差し込むのでした。
北条一族と、それに味方する御家人たちは、比企の館に討ち入ります。比企能員の娘、せつ(山谷花純)は、その子、一幡と共に逃げようとしますが、善児(梶原善)の後継者であるトウ(山本千尋)に刺されます。善児も一幡に近づくのでした。
義時の所に、異母弟の、北条時房(時連から改名)(瀬戸康司)がやって来ます。
「すべて終わりました」
義時は北条政子を前にしていました。
「千幡様に鎌倉殿になっていただく沙汰(さた)をすすめます」
立ち上がろうとする義時に、政子がいいます。
「一幡は無事なのですね」
義時はまた座ります。
「生きていると分かれば、担ぎ上げようとする輩(やから)が現れないとも限らない。今は、行方知れずということにしてあります」
「これで良かったのですね」
「良かったかどうかは分かりません。しかし、これしか道はありませんでした」
義時は政子の前から立ち去ります。
義時は兄の宗時(片岡愛之助)の言葉を思い出します。
「小四郎。俺はこの坂東を、俺たちだけのものにしたいんだ。坂東武者の世をつくる。そして、そのてっぺんに北条が立つ」
正式な形で、時政は北条政子に報告をします。
「鎌倉をわがものにしようとした比企能員でございましたが、わが北条の手により、一族郎党、すべて討ち取りましてございます」
「ご苦労でした」
と、政子は声を掛けます。義時が発言します。
「残念ながら、一幡様はいまだ行方知れず。新たな鎌倉殿は、千幡様にお願いすることになりました。北条殿(時政)には、将軍後後見人になっていただきます。千幡様をお助けし、この後(のち)は、北条殿が政(まつりごと)を行います」
そこへ知らせが入るのです。頼家が意識を取り戻しました。
皆が訪れると、頼家は床から起き上がっています。
「ずいぶん寝た気がする。すぐにでも一幡に会いたい。せつを呼んでくれ。頭がぼんやりする」
そして頼家は、自分のそり上げられた頭に気付くのでした。