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『映画に溺れて』第30回 羽織の大将

第30回 羽織の大将

平成四年四月(1992)
三軒茶屋 スタジオams

 

 私の出身校は大阪芸術大学舞台芸術学科である。当時の先生が堺正俊教授。芸名がフランキー堺。四年間、私は堺先生に教えを受け、演劇の勉強をしたのだ。
 だから、軽々しくフランキーなどとは呼べないのだが、在学中、一度、先生と電車でいっしょになったことがあった。大学は大阪にあるので、講義のある日は先生は阿倍野の定宿に滞在されて、近鉄電車で大学まで通っておられた。午後だったので車内は空いていて、先生と目が合い、私は手招きされて、恐れ多くも先生の隣の席に座り、緊張のあまりコチコチになって、ほとんどなにをしゃべったのか、記憶にない。
 ただひとつ、『幕末太陽伝』を入学前に観ましたと言うと、先生は「あればっかりだな」と一言おっしゃった。
『幕末太陽伝』以外にもフランキー堺の落語を題材にした映画がある。『羽織の大将』で、昭和三十五年の現代劇。
 大学の落研出身の若者が桂文楽に弟子入りし、みるみる頭角を現し、すぐに二つ目に昇進。運が開け、TVに顔が売れ、落語以外の仕事でどんどん忙しくなる。仲間の義理も欠きがちで、芸者と遊んで洋服のまま寄席に出て、とうとう席亭から出入り差し止め。それでも懲りず、学生時代の友人が政界に出馬するので選挙運動に引っ張り出され、選挙違反の片棒を担いだとして逮捕され、とうとう師匠からも破門、マスコミの仕事もなくなり人気もなくなる。
 前半ドタバタだったのに、最後は突然、シリアスなお涙もののようになり、古典落語家として再出発。フランキー堺のドライで世渡り上手なキャラクターにぴったり。
 親身になってくれる兄弟子の桂小丸、ふんするは桂小金治桂文楽役はなんと、本人の出演。文楽を知らない人もこの映画で、当時をしのぶこと出来る。

 

羽織の大将
1960
監督:千葉泰樹
出演:フランキー堺、団令子、加東大介桂小金治原知佐子桂文楽藤木悠