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『映画に溺れて』第185回 デイブレイカー

第185回 デイブレイカー

平成二十三年七月(2011)
新橋 新橋文化

 ゾンビ映画が出て来るまでは、怪物に襲われた被害者が自ら加害者の怪物に転じるのは吸血鬼映画であった。吸血鬼に血を吸われると、吸われた者も吸血鬼になる。吸血鬼は人の血を吸ってさえいれば、歳をとらずに生き続ける。弱点は太陽の光で、これを浴びると焼け死ぬので、昼間は暗い場所で眠り、夜になると活動する。
 もしも、吸血鬼が退治されず、仲間をどんどん増やしていったらどうなるか。それが『デイブレイカー』である。
 近未来、不老不死の吸血鬼になりたがる者が増えて、世界人口の大半が吸血鬼となっている。地下鉄のホームに立つ人々はみんな吸血鬼。夜になると出勤し、夜明け前に帰宅する。夕方、出社前にコーヒーショップで血液入りコーヒーを買う列。政治家も科学者も企業のトップも警察や軍隊も、そして一般の市民たちも、みんな吸血鬼なのだ。
 企業で人工血液の研究をしている血液学者が主人公。もちろん彼も吸血鬼である。世界中から吸血鬼でない人間が激減し、血液が不足しており、血に飢えた吸血鬼は知性をなくし、吸血鬼の血を吸う。同胞を襲った吸血鬼は凶暴な野獣となってしまうのだ。政府は野獣化した吸血鬼を検挙し、太陽にさらして処刑する。
 人工血液は完成せず、血液企業が捕獲し飼育場で眠らせている人間たちの数も減り、深刻な社会問題となっている。
 そんな世界で主人公は隠れ住む非吸血鬼の人間グループと出会い、吸血鬼社会を揺るがす発見をする。
 キム・ニューマンの『ドラキュラ紀元』とリチャード・マシスンの『アイアムレジェンド』を合わせたような画期的な近未来吸血鬼SF映画である。

 

デイブレイカー/Daybreakers
2009 アメリカ・オーストラリア/公開2010
監督:マイケル・スピエリッグピーター・スピエリッグ
出演:イーサン・ホークウィレム・デフォーサム・ニール、クローディア・カーヴァン、マイケル・ドーマン、イザベル・ルーカス