日本歴史時代作家協会 公式ブログ

歴史時代小説を書く作家、時代物イラストレーター、時代物記事を書くライター、研究者などが集う会です。Welcome to Japan Historical Writers' Association! Don't hesitate to contact us!

『映画に溺れて』第394回 メルシィ!人生

第394回 メルシィ!人生

平成十五年三月(2003)
飯田橋 ギンレイホール

 

 シリアスからコメディ、恋愛ものから犯罪アクションまでなんでもこなす芸達者ダニエル・オートゥイユ主演の『メルシィ!人生』、大好きな一本である。
 大手避妊具メーカーの経理部社員フランソワは真面目なだけが取り柄、透明人間のように目立たない。離婚した妻に未練たっぷりだが、妻は気力のない元夫を軽蔑しきっており、妻が引き取った高校生の息子も母親の影響で父をバカにしている。
 勤続二十年、目立たずこつこつやってきたのに、ある日突然、人員削減で解雇を言い渡される。フランソワならいてもいなくても同じだからという理由で。
 失意のうちにアパートの窓から飛び降りようとすると、隣の老人が声をかける。
 彼の話を聞いた老人が言う。クビにならない方法を伝授しよう。ゲイのふりをするんだ。
 私、ゲイじゃありませんけど。
 いいんだよ。会社は社員をゲイだという理由では解雇できない。勤め先が避妊具メーカーなら、なおのこと、エイズ対策でゲイの顧客も多いだろう。
 なるほど。
 フランソワがゲイであるという噂はたちまち社内に広がり、クビは撤回される。
 隣の老人がどうしてこんなアイディアを思いついたのか。フランソワのクビが撤回されたまさにその理由で、老人はかつて、会社を辞めさせられていたのだ。時代は変わった。
 ジェラール・ドパルデューふんする意地悪な人事部長。スポーツマンタイプでゲイ嫌い。ところが社長の側近から、あからさまなゲイ差別は出世にひびくと忠告され、無理してフランソワと仲良くつきあい、ほんとうに仲良くなってしまう。
 父親がゲイであることを知った息子は父を見直し、美人の女上司はフランソワのゲイを嘘だと見抜いて、彼への好意に気づく。
 ラストシーン。レストランでシャンパンを注文し、彼はなにに祝杯をあげるのか。後味のいい、美酒のような佳作である。

 

メルシィ!人生/Le Placard
2000 フランス/公開2002
監督:フランシス・ヴェベール
出演:ダニエル・オートゥイユジェラール・ドパルデュー、ティエリー・レルミット、ミシェル・オーモン、ジャン・ロシュフォールミシェール・ラロック