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『映画に溺れて』第464回 アンテベラム

第464回 アンテベラム

令和三年十一月(2021)
日比谷 TOHOシネマズシャンテ

 

 黒人女性を主人公としたふたつの世界の物語が描かれる。
 アメリカ南部の農園で酷使される女奴隷のエデン。南部連合の旗が翻り、農場を支配するのは南軍の将軍とその配下の兵士たちである。
 黒人奴隷は白人の許可なくしゃべることを禁じられ、黒人同士の会話も厳禁。昼は綿を摘み、女たちは夜な夜な兵士の慰みものにされる。
 脱出をはかった黒人の夫婦が夫は鉄枷を首にはめられ、妻はロープに縛られ馬にひきずられた揚げ句、夫の目の前で射殺され、竈で焼かれる。新しく連行されてきた黒人たちは将軍の孫娘からペットのように名前を付けられ、家畜のごとく扱われる。将軍は言う。われわれ白人は神によって選ばれたのだと。
 エデンは将軍専属の奴隷として夜ごと犯され、逆らえば鞭打たれ、背中に焼き印を押される。新しく連行されてきた黒人女性がエデンに助けを求めても、なにもしてやれない。殺されたくなければ、黙って堪えるしかない。
 もうひとつの物語。現代の都市に住むヴァネッサ。やさしい夫と幼い娘と三人で暮らす裕福なエリートである。博士号を持つ社会学者で、著名な作家で、人種差別や女性差別に反対する論客でもある。TVに出演し、頑迷な保守派と討論して見事にやりこめる。
 新刊の宣伝を兼ねた講演会が南部で開催され、多くの聴衆の前で喝采を受ける。夜は久々に旧友とレストランで楽しく過ごす。が、彼女の周囲では不穏な空気が流れている。南部の貧しい白人たちがエリート黒人に抱く根深い憎悪。ヴァネッサを乗せたタクシーは宿泊先のホテルに向かわず、闇の中に消える。
 そしてまた、物語は最初の奴隷農場に戻る。そこにはエデンとヴァネッサを結ぶ驚くべき謎が隠されていた。
 テーマは暗くて重いが、ネタバレ厳禁のストーリーはぞくぞくするほど面白い。

 

アンテベラム/Antebellum
2020 アメリカ/公開2021
監督:ジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ
出演: ジャネール・モネイ、エリック・ラング、ジェナ・マローン、ジャック・ヒューストン、カーシー・クレモンズ、ガボリー・シディベ