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『映画に溺れて』第482回 イングロリアス・バスターズ 

第482回 イングロリアス・バスターズ 

平成二十一年十二月(2009)
新宿歌舞伎町  ミラノ2

 

 パリがナチスに陥落された第二次大戦末期。米軍はレイン中尉をリーダーとするユダヤ系の精鋭部隊を極秘裏にフランス国内に送り込む。彼らの使命はひたすらナチスを殺すこと。それも徹底的に残虐に。ナチスの軍服を着ている者は見境なく殺戮し、頭の皮を剥ぐ。バスターズは凶暴で野蛮な人殺し集団なのだ。もちろん、ナチスが国家をあげて組織的にユダヤ人に行なった残虐行為に比べれば、児戯みたいなものだが。
 一方、悪の主役ともいうべきが、ヒトラーの信任厚いハンス・ランダ大佐。温厚で品があってユーモアを解し、フランス語も英語も堪能な知的教養人であり、しかも推理能力にもすぐれ、潜んでいるユダヤ人を嗅ぎつけるのに才腕を発揮する。あだながユダヤハンター。本人はハンターよりも探偵と言われたいらしく、パイプをくゆらせながら思索するところはまるで英国の名探偵を思わせる。
 そして、もうひとつの主役が「映画」なのだ。宣伝相ゲッペルスは映画を大ドイツ帝国の重要産業と考えており、ヒトラーとドイツの偉大さを宣伝し、しかも収益をあげるために、ハリウッドに負けない娯楽作品を世界市場に流通させることを目論む。パリの劇場でナチス高官を集めて新作の発表会。作品はナチスの英雄的兵士の活躍を描いた実録もの。この映画館の若くて美しい館主エマニュエルは、四年前、ランダ大佐に惨殺されたユダヤ人一家の生き残りショシャナの変名だった。
 ユダヤハンターのランダ大佐とナチス殺しのバスターズ、さらにヒトラーをはじめとするナチスの主だった高官たちがこの小さな映画館に集結し、とんでもない大団円。映画もまた武器になるということか。
 ハリウッド映画では、往々にして、ドイツ人であろうがフランス人であろうが、中国人や日本人でさえみんな英語をしゃべるのだが、この映画ではドイツ人はドイツ語、フランス人はフランス語。言葉のなまりで出自を追求される場面もあり。

 

イングロリアス・バスターズ/Inglourious Basterds
2009 アメリカ/公開2009
監督:クェンティン・タランティーノ
出演:ブラッド・ピットクリストフ・ヴァルツメラニー・ロランダニエル・ブリュールイーライ・ロスマイケル・ファスベンダーダイアン・クルーガー、ティル・シュバイガー、アウグスト・ディール、ジュリー・ドレフュスマイク・マイヤーズ