大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第10回 根拠なき自信
鎌倉の仮御所で、頼朝(大泉洋)は義経(菅田将暉)と話します。
「奥州の、秀衡(ひでひら)殿の所には、何年おったのかな」
「六年おりました」義経はいいます。「こちらとは比べものにならいくらい、美しいところです」
頼朝は笑い声をたてます。
「鎌倉もいずれは、平泉に負けないほど豊かにしたいものだ」
「いやあ、どうでしょう。難しいんじゃないですか」
義経は秀衡に三千の兵を送ってくれるよう、文(ふみ)を書いたことを伝えます。
「それは心強い」
と、頼朝。
「一刻も早く京へ攻め上り、憎き清盛入道を討ち果たしましょう」
平泉の地では、藤原秀衡が、義経からの文を読んでいました。実は清盛からの文も届いていたのです。頼朝追討の兵を挙げよと書いてきていました。
「承知したと、どちらにも返事をしておく。いつまでに、とは、いわずにな」秀衡はつぶやくようにいいます。「九郎ほどの才があれば、おのれ一人で、大願を成し遂げよう」
平家の坂東支配の大幹部として、名を轟かせていた大庭景親(國村隼)は、縛られて地面の上に座らされていました。そこへ北条時政(坂東彌十郎)と三浦義澄(佐藤B作)がやって来ます。大庭は二人にいいます。
「頼朝ごときにそそのかされおって、情けない。今からでも遅くない。平相国様は寛大なお方じゃ。悔い改めて、平相国様のために尽くせ。おぬしらのためにいうておる」
「どちらが敗軍の将かわからねえな」
と、やって来たのは上総広常(佐藤浩市)です。
「今思えば」、と、大庭は座り直します。「伊東と北条のいさかいをおさめ、頼朝の命を救ったことが我が身の仇となったわ。面白いな」
大庭は笑い声をたてます。上総は太刀を抜き放ち、大庭の首に突きつけます。
「あの時、頼朝を殺しておけばと」大庭は上総に向けていいます。「お前も、そう思うときが来るかもしれんの。上総介。せいぜい気をつけることだ。」
大庭は大声で笑います。上総はその首を切り落とすのでした。
河原に吊された大庭の首をながめ、時政と義澄は話します。
「一つ間違えば」時政はしみじみといいます。「俺たちの首があそこに掛けられてたんだなあ」
義澄もしみじみと答えます。
「悪い男ではなかった」
八重(新垣結衣)は御所の厨房で働いていました。少しでも頼朝の役に立ちたいとの気持ちからでした。北条義時(小栗旬)は、そんな八重に、草餅を差し入れます。
「受け取ってくれた」
「今も惚れてるのか」
義村は弓の点検をしています。
「八重さんもこれからは幸せになってもらいたい。それだけだ」
「じゃあ、俺がもらっても文句はないな」
「ちょっとお待ちなさい」
「もらってもいいんだな」
「もちろん。八重さんが幸せになるのなら」
「いったな」
夜、義村は八重をたずねます。八重は昼間、義時に草餅をもらったことに困っていました。義村は八重の側に腰を下ろします。
「先に進んだらいかがですか。生き延びることができたんだ。もったいない」義村は八重に顔を近づけます。「力になる」
八重の声色は変ります。
「そういうおつもりなら出て行きます」
八重は義村の目前に、扉を閉めるのでした。
北条政子は、お客たちに目通りしていました。最後にやって来たのが義経でした。
「私は、母とは離れて育ち、姉妹もおりません。思い切り甘えてもよろしいのでしょうか」
困惑する政子でしたが、
「かまいませんよ」
と、答えます。義経は政子に近づくと、その膝に頭を乗せるのでした。
頼朝は三人の兄弟と会っていました。それぞれ母親が違います。共に暮らしたこともありません。頼朝はいいます。
「弟たちよ。源氏再興のためには、血を分けたそなたたちが頼りじゃ。坂東の者どもは信じ切ることができぬ」
頼朝は義時に気をつかい、とってつけたように、いいます。
「小四郎は別じゃ。五番目の弟と思ってくれ」
義時は苦笑するしかありませんでした。早く京に攻め上りたいとはやる義経に対し、頼朝は、坂東を固める必要があると説明します。
頼朝と関係を持つ亀(江口のりこ)は、義時の妹である実衣(宮澤エマ)から、八重の正体を聞き出します。亀は八重に、酒と肴を用意して、頼朝もとに届けるようにいいつけるのでした。八重がいうとおりにやってくると、部屋から出てきたのは亀でした。頼朝と二人でいるところを見せつけます。頼朝は驚いて八重を見ます。亀は
「ありがとう。八重さん」
と、いってのけるのでした。
頼朝は常陸(ひたち)に出陣します。佐竹氏は、源氏の一族でありながら、平家に通じていて、頼朝らの挙兵に、かたくなに応じようとしませんでした。和田義盛(横田栄司)が報告します。
「敵は我が軍勢を前にしても、一歩も引く様子を見せません」
頼朝は使者を送ることにします。上総広常は、佐竹とは長年の付き合いがあります。
「まかせろ」
と、上総は、使者の役を引き受けます。その時、義経が立ち上がります。
「まどろっこしいことはやめて、攻め込むべきです」義経はいいます。「五百の兵をくれ。三日で、敵の大将の首を上げてみせる」
三浦義澄が義経に教えるように話します。
「いくさには二通りござってな。しなければならない、いくさと、しなくても済むいくさ。しなくて済むすむいくさなら、しないに越したことはない」
義経は義澄を言葉をさえぎるようにいいます。
「お前の話は耳に入ってこない」
上総が義経に聞きます。
「いくさの経験は」
「ない」
「経験もないのに、結構な自信じゃねえか」
義経は笑い出します。
「経験もないのに自信もなかったら、何もできない。違うか」
「いいか小僧」
「無礼者」
と、叫ぶ義経を無視して、上総は話します。
「いくさってのはな、一人でやるもんじゃねえんだよ。身勝手な振る舞いが、全軍を総崩れに追いやることだってある。決められたことに従えねえなら、とっとと奥州へ帰れ」
ここで頼朝が発言します。
「九郎。気持ちはよう分かるが、ここは控えておれ」
上総の手勢が、佐竹の陣の前にやって来ます。上総は一人、前に進み出ます。
「もし俺が斬られたら、すぐに攻め込め」と、上総は義時にいいます。「仇討ちといえば、全軍が奮い立つ」
上総は石段を登っていきます。佐竹は上総に言葉を投げかけます。
「情けないのう。あの上総介が、頼朝に尻尾を振るとは」
二人は石段の中央で対します。
「いつ以来だ」
と、佐竹がいいます。
「さて、いつ以来かな」
「お前、老けたなあ」
佐竹がそういい終わるやいなや、上総は太刀を抜き放って斬りかかるのです。
義時たちは驚きますが、もはや攻撃するしかありません。敵の軍勢も石段を降りてきます。
陣にいる頼朝は、うめくようにいいます。
「何をやっておるのだ。上総介」
佐竹勢は、金砂山を砦として立てこもっています。いくさは膠着(こうちゃく)状態となりました。
台の上に、土で金砂山の立体図が作られています。それを使って畠山重忠(中川大志)が、敵の砦がいかに難攻不落かを説明します。和田義盛が小鳥を雛を捕まえてくるなど、場は次第に和やかになっていきます。
「いくさの最中ではないのか」
と、義経がいらついた声を出します。義時が聞きます。
「九郎殿、何か策がおありなのでは」
義経は拗(す)ねています。
「小僧は控えていろといわれたから」
頼朝が呼びかけます。
「話してみよ」
義経は顔を上げます。
「畠山、お前、正しい。これ以上正面から攻めるのは馬鹿のすることだ」
「九郎殿ならどうされますか」
と、義時はたずねます。
「敵の目は、常に下に向いている。だから上から攻める」
義経は土で作った立体図の上に小石をのせます。「ここ」と、背後の岩場を示します。畠山がいいます。
「しかし、岩場まで登れるものなど、いるでしょうか」
「俺の郎党たちならたやすいこと」
「無理だ」と和田が発言します。「回り込んでいるところを矢で射られるのが関の山だ」
「下から総攻めをしかけ、敵の目を引き付けろ」
畠山がいいます。
「あなたの策のために我らの兵を犠牲にするというのですか」
「さっき様子を見てきた。敵の矢が届くのは、二重の柵のうち、手前の柵の向こう側。よって」義経は立体図に手を置きます。「攻めるのはここまで」
聞いていた頼朝は立ち上がります。
「見事な策である」
義経は目を輝かせます。
「この九郎義経、いくさに出たら誰にも負けません」
「頼れる弟よ。わしは果報者じゃ」頼朝は命じます。「すぐに支度を」
「承知」
と、義経は返答します。しかしそこに時政がやってくるのです。
「おい、朗報じゃ。いくさは終わりだ」
上総が佐竹の者と内通し、砦の守りを解かせたというのです。
「我が軍の大勝利じゃ」
と、時政は叫びます。皆は歓声を上げ、頼朝は命じます。
「参るぞ」
義経はその場に取り残されるのでした。
義時は八重に会いに来ていました。土産にキノコ類を渡します。そこへ不審な物音が聞こえてくるのです。頼朝が忍んできていたのでした。
政子は義経に膝枕をしてやっています。
「小四郎(義時)から聞きました。誰もが考えつかなかったようなことを、九郎殿は思いつかれた。素晴らしいではないですか」
「思いついただけでは意味がありません」
と、義経は政子の膝頭をなでさすります。
「これからいくらでも機会はあります。佐(すけ)殿のために、力を貸してくださいな」
「姉上のお声は、いい響きだ」
政子もまんざらではありません。
「私にできるのは話を聞くことぐらい。つらいときはいつでもおいでなさい」
頼朝は義時と話しています。
「しかし、お前が八重に惚れているとはなあ」
「たまたまでございます。おいしそうなキノコを見つけたものですから」
「責めているのではない。そういうことなら、わしはあきらめよう」
「あきらめてなかったことが驚きです。八重さん、御所で何かあったのですか」
「よし、あれと一緒になれ」
「お待ちください」
「わしが、二人を取り結んでやる」