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『映画に溺れて』第254回 忠臣蔵外伝 四谷怪談

第254回 忠臣蔵外伝 四谷怪談

平成六年十二月(1994)
新宿 新宿松竹

 歌舞伎通の人なら承知だろうが、四世鶴屋南北の『東海道四谷怪談』は『仮名手本忠臣蔵』の裏の世界を描いたパロディになっている。
 江戸時代は芝居で史実を実名のまま描くことは憚られたので、元禄の赤穂事件は室町時代太平記の世界に置き換えられた。将軍は足利尊氏浅野内匠頭は出雲の塩冶判官高貞、吉良上野介は足利の執事高武藏守師直というように。
 四谷怪談民谷伊右衛門は塩冶家の浪人となっていて、鶴屋南北伊右衛門を徹底的に極悪人にしており、つまり史実の赤穂浪士の中にこんなにも悪い奴がいたと言わんばかりに描いているのだ。
 この設定を元禄に置き直したのが、深作欣二監督の『忠臣蔵外伝 四谷怪談』である。
 つまり民谷伊右衛門は浅野家の元家臣。四谷怪談伊右衛門、お岩、伊藤喜兵衛、お梅、宅悦らに元禄の赤穂浪士吉良上野介、清水一学などが絡む。
 それはいいのだが、南北の四谷怪談をかなり改悪して、忠臣蔵にくっつけただけで、忠臣蔵とも四谷怪談ともつかず、中途半端になったのは残念である。ここはやはり、伊右衛門を優柔不断な善人にせず、きちんと『東海道四谷怪談』の筋でやってほしかった。
 監督の深作欣二をはじめ、大石内蔵助津川雅彦堀部安兵衛渡瀬恒彦吉良上野介田村高廣、清水一学の蟹江敬三、今思えばまだそんな昔の作品でもないのに、故人が目立つ。この時期でさえ、忠臣蔵の映画、ほんとに少なかった。
 パロディでも外伝でもなんでもいいから、もっとたくさん、忠臣蔵映画の新作が観たいものである。


忠臣蔵外伝 四谷怪談
1994
監督:深作欣二
出演:佐藤浩市高岡早紀、荻野目慶子、石橋蓮司渡辺えり子蟹江敬三火野正平菊池麻衣子田村高廣真田広之名取裕子近藤正臣六平直政渡瀬恒彦津川雅彦