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『映画に溺れて』第266回 アパートの鍵貸します

第266回 アパートの鍵貸します

昭和六十二年十二月(1987)
新宿 新宿ロマン

 名匠ビリー・ワイルダー監督には好きな映画がいっぱいだが、『アパートの鍵貸します』は伏線を張りめぐらせた、これぞコメディの教科書のような作品である。
 ジャック・レモンふんする主人公は保険会社の独身社員。ニューヨークのかなりいいアパートに住んでいるのに、夜になってもなかなか家に帰れない。どうしてか。
 実は会社の上司たちの浮気に協力しているのだ。夜の間だけ、四人の管理職に自分の部屋を貸している。彼らが愛人と楽しくすごす場所として。見返りに社内での評価が高まる。
 ある日、部長に呼ばれる。君はどこでも人気がある。みんなが君を誉め、君を欲しがっている。どうしてだ。
 問い詰められて、真相を打ち明ける。なんだと。咎められるかと思いきや、部長は彼の昇進と引き換えに、五人目の男に。
 ところが、部長の愛人こそ、彼が密かに思いを寄せているエレベーター嬢だった。彼の部屋で彼の好きな女性が、部長と情事を繰り返すなんて。
 そして、クリスマスイブの夜、彼らに奇跡が訪れる。
 ジャック・レモン、小心さとしたたかさ、純情さと強引さを兼ねそなえた恋する男を好演。エレベーター嬢のシャーリー・マクレーン、可愛いかったなあ、このころは。部長のフレッド・マクマレー、ワイルダー監督の『深夜の告白』の殺人犯役で主演した後、ディズニー映画『フラバー』のうっかり博士や『僕はむく犬』のお父さんなども。


アパートの鍵貸します/The Apartment
1960 アメリカ/公開1960
監督:ビリー・ワイルダー
出演:ジャック・レモンシャーリー・マクレーン、フレッド・マクマレー、レイ・ウォルストン、デヴィッド・ルイス、ジャック・クラシェン