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大河ドラマウォッチ「いだてん 東京オリムピック噺」 第16回 ベルリンの壁

 教員にならずに、マラソン一本の道を決めた金栗四三中村勘九郎)。足袋(たび)屋の播磨屋の二階に下宿します。次のベルリンオリンピックを目指します。
 四三のもとには、結婚したスヤの家から、仕送りまでが送られてきていました。その金で毎日のように豚鍋を食うのです。後輩たちにもおごりながら。
 その頃、美濃部孝蔵山本未來)、後の古今亭志ん生は浜松で過ごしていました。旅の師匠、小円朝と喧嘩をして、一座を追い出されてしまっていたのでした。無銭飲食をして孝蔵は警察に逮捕され、牢獄に入れられることになります。そして目にしたのが、ただ一人孝蔵を認めてくれた師匠、円喬の死を伝える新聞記事でした。悲しみのあまり荒れ狂う孝蔵。
 四三は嘉納治五郎役所広司)と会っていました。嘉納のもとには、オリンピックのシンボルマークが届けられていました。四三にそれを見せます。五つの大陸を示す輪の意味を説明する嘉納。アジアも入っているのかと四三は感心します。
「君と三島君が先駆者として走った功績だよ」
 と嘉納は言います。
 しかし、その頃ヨーロッパでは、サラエボの地で、皇位継承者が凶弾に倒れるという事件が起こっていました。それをきっかけにヨーロッパ全土が戦火に包まれます。
 牢に入っていた孝蔵は放心状態でいました。同じ牢にいる男(マキタスポーツ)に、芸をやれとけしかけられます。男を客と見込んで孝蔵は渾身の力で落語を披露します。しかし男は途中で寝てしまうのです。面白くない。と男は言い切ります。何がいけないのかと悩む孝蔵。男は言います。
「芸はもう一つだが、お前さんどこかその、おかしなところがある」
不審に思う孝蔵に男は言います。ところが噺を始めると「おかしなところ」が消えてしまう。孝蔵は師匠を思い出しながら噺をし、ついに本気になります。長かった髪も切り落とします。そして牢を出ると追い出された小円朝のもとに行くのです。頭を下げ、言います。
「師匠、本日より、またお世話になります」
 勢いに飲まれ、小円朝はそれを許可してしまいます。一から修行をやり直す孝蔵。
 一方、四三は、ベルリンオリンピックを目指して猛特訓に打ち込んでいます。そして日本陸上競技大会で世界新記録を出すのです。正月は戻ってくるのかと手紙で問うスヤ。それに対し、一日も無駄にはできないと四三は返答します。
 スヤは熊本から、東京にいる四三に会いに行くのです。
 その頃永井道明の秘蔵っ子、二階堂トクヨが、三年のイギリス留学を終えて帰ってきました。トクヨは嘉納に欧州の情勢を報告します。
「今、欧州は、オリンピックなど開催できる状況にない」
「関係ない」と嘉納は叫びます。「オリンピックは平和の祭典。四年に一度の相互理解の場なんだよ。たとえ戦時中でも、殺し会いの最中でも、スタジアムは聖域だ。けがされてたまるか」
 四三は下宿に帰り、スヤを見つけて仰天します。喜ぶ四三でしたが、
「帰って」と顔をこわばらせます。「俺は今、オリンピック出場ば目標に掲げて、日々がんばっとる。二年前から、一日も休まずやっとる。妻も料理も忘れて、祖国のために走ろうて思っとる。だけんスヤ、俺の気ば散らさんとって」さらに言います。「甘えは、堕落の入り口ばい」
 四三は練習に励み、その耳には、スタジアムの歓声が聞こえていました。
 翌日、部屋に引きこもる四三の姿があります。荒れ果てた様子。壁に張った、誓いの紙を破り捨てます。
 熊本では、スヤが義母の幾江に、再び東京に向かう許可を求めていました。新聞にベルリンオリンピック中止の記事が掲載されていたのです。