日本歴史時代作家協会 公式ブログ

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大河ドラマウォッチ「いだてん 東京オリムピック噺」 第45回 火の鳥

 東京オリンピックを二年後に控え、田畑政治阿部サダヲ)は、組織委員会の事務総長の座を追われます。
 しかし田畑の家を仲間たちが訪ねていました。元水泳監督の松澤一鶴(皆川猿寺)、聖火リレーのコースを調査して回った森西栄一、そしてもちろん田畑の秘書であった岩田幸彰(松坂桃李)、など。けれども田畑は元気を出し切れないのです。競技場の模型も持って帰ってくれと頼みます。
「もうオリンピックには関わらん」煙草に火をつけ、縁側に座って外を向きます。「後は頼んだよ」
「僕も辞めるつもりです」岩田が田畑のそばに座ります。「田畑さんと心中する覚悟でやってきましたから。政府主導のオリンピックには、とうてい残りません」
 慌てて止める田畑。
「君が今、去ったら、東京オリンピックはどうなるんだ」
「渉外部長なんて誰でもやれますよ」
 という、岩田。
「違う、そう、誰でもいい」田畑は岩谷にじり寄ります。「だから君じゃなきゃ駄目なんだ。やれるよ、誰でも。だって線路はほぼ敷いたから、俺が。あとは誰が走ってもおんなじって状態までお膳立てした。俺がね」得意そうな田畑。「だからこそ、俺は岩ちんに走って欲しいんだ、俺が敷いたレールを。俺がまいた種を刈り取って欲しいんだよ」
 田畑は床に伏せて岩田に頼むのです。
 仲間たちが帰ろうとすると、田畑の娘のあつ子(吉川 愛)が見送りに出てきます。礼を述べたあと
「また来ていただけませんか」
 と、頼むのです。田畑の妻の菊枝も出てきていいます。
「もう、見ていられないんです。あの日からすっかりふさぎこんで。オリンピックがすべての人だったのに、それを取りあげられて。だから時々来て、話し相手になってください」
 ウチは毎週でも毎晩でも解放しますから、という菊枝。
「それいいかもな」と森西。「裏組織委員会だ」
 田畑が組織委員会を正式に去る日がやってきました。田畑の後任として事務総長に就任したのは、与謝野晶子の次男で外交官の与謝野茂でした。
 記者会見で、与謝野と田畑は隣同士に座ります。与謝野が発言しているところに田畑が割り込みます。
「いいかい、本当は辞めたくないんだがね。私の知識、経験を求められれば、いくらでも差し出す」
 しかしそういう田畑の言葉尻は、弱々しいものでした。
 田畑が去ろうとするところに、政治家の川島正次郎(浅野忠信)が通りかかります。田畑を辞任に追い込んだ張本人です。川島は田畑に声もかけず通り過ぎていきます。川島にとってオリンピックとは、日本が経済大国へと駆け上がるための足がかりに過ぎなかったのです。川島は政治の世界に戻っていきました。
 「日紡貝塚」女子バレーボール部が世界選手権で宿敵ソビエトを下し、世界一になります。この頃から世界中のメディアが彼女たちをこう呼ぶようになるのです。
東洋の魔女
 田畑のもとに、仲間が新聞を届けに来ます。日紡貝塚の監督、大松博文徳井義実)が辞意を表明したという記事が掲載されていました。田畑はすぐさま大阪にある日紡貝塚に駆けつけます。そこでは鬼の大松と呼ばれた男が、選手たちと和やかに過ごしていました。目を疑う田畑。田畑は大松を連れ出します。田畑は日紡貝塚のチームが金メダルを穫ることを期待して、女子バレーボールをオリンピックの正式種目にねじ込んだのです。
 ソ連を倒して世界一になったことで、大松は燃え尽きた気持ちになっていたのでした。大松はいいます。
「青春を犠牲にして、いたずらに婚期を遅らすのはどないやねん、大松と。お前にそんな権利があんのか、大松と」
 あと二年と頼む田畑。
「二年、二年て」大松は選手たちの功績を語り、いいます。「同僚たちは恋人ができる。嫁に行く。子供産む。それを横目に、ウサギ跳び、回転レシーブ。アホやで」
 大松は田畑に、事務総長を辞めたことを確認します。その上で質問するのです。田畑にとって、オリンピックとはなんなのか。
「人生だよ」田畑は答えます。「生きる目的だよ。すべてだよ」
 それを聞いても大松の心は動きません。ご愁傷様でしたな、といって田畑の前から去って行くのです。
 東京オリンピックまで、あと一年と七ヶ月に迫ります。裏組織委員会の田畑家では、聖火コースについて話し合われていました。田畑は嬉しそうです。テレビもラジオも新聞も、オリンピック一色でした。オリンピックムードが盛り上がってきていたのです。そんな田畑を見て、仲間たちも嬉しそうです。
 岩田は組織委員会で、オリンピックを盛り上げる女性たち、名付けて「コンパニオン」の選考会を行っていました。その志望者の中に、一人の老人がまぎれ込んでいたのです。実はコンパニオン志望者ではなく、聖火リレーの最終ランナーに立候補しに来ていたのでした。しかし聖火ランナーの募集はまだ行われていなかったのです。もちろんその老人こそが、日本人初のオリンピック出場者である金栗四三中村勘九郎)でした。金栗は岩田に、田畑に渡してくれるようにと書類を託します。それは大きな日本地図でした。くまなく足跡のハンコが押してあります。金栗が走った場所の記録を記したものでした。それを見て田畑はひらめくのです。全国46都道府県に、聖火をくまなく走らせようというのです。田畑はいいます。
東京オリンピックだからといって、東北や北海道や、四国や北陸を無視できる。できないよー。これは日本のお祭りでもあるんだ。そのことをこの地図が教えてくれたんだよ」そして田畑は叫ぶのです。「ありがとう、いだてん。マラソン馬鹿」
 組織委員会で岩田がそのことを発表すると、歓声が上がります。金栗四三の偉業を参考にしたことをいうと、それなら最終ランナーは金栗か、との声が上がります。
 しかし裏組織委員会では、田畑が反対するのです。
「全国の若者がつなぐ聖火リレーだよ」田畑は宣言します。「走るのは、未来ある若者」
 田畑は妻の菊枝に「アレとナニ」を持ってくるようにいいます。それでわかるのかと感心する松澤一鶴。しかしここでタネが明かされるのです。菊枝は娘にいいます。
「アレとかナニとか、いってる本人もわかってないのよ。何でもいいの。持っていけば。日本酒でもウイスキーでも、違う、そう、とかいって結局のむでしょ」
 岩田は独立したばかりの国が多いアフリカに飛び、オリンピックの趣旨を説明し、参加を呼びかけました。「平和の祭典」の言葉に、アフリカの人々の心も動かされていくのでした。
 田畑は妻と娘を伴い、大阪の日紡貝塚に来ていました。大松を説得するためです。大松は家族とともに、食事をしてきたところでした。大松も悩んでいました。引退を発表したところ、五千通の手紙が届きました。すぐに辞めろという意見が六割、残りの四割はオリンピックに出場するべきというものでした。バレーボールの選手たちが駆けつけてきます。
「魔女いうな、マスコミ。よけい婚期が遅れるやろが」大松は田畑にスパイクを打ち込みながら叫びます。「おれがやる、ゆうたらあいつらはついていくっていいよんねん。あと二年。大事な青春のすべてを全部犠牲にして、ついてきよんねん。だから俺にはゆえへん。ついてくるってわかっているから、俺はゆえん」
 大松は田畑の向かいに座り込みます。「ウマ」と大松に呼ばれる選手の河西昌枝(安藤サクラ)が発言します。
「青春を犠牲にして。そういわれんのが、一番嫌いです。私たちは青春を犠牲になんかしていない。だって、これがあたしの青春だから。今が。バレーボールが、青春だから」
 他の選手もいいます。
「そうや。ウチらにもあるわ青春。きっとありすぎるくらいあるわ」
「恋愛や男性やドライブなんかより、ずーっと青春や」
「せやな。一通りやってみたけど、どれもピンとけえへんし」
「二年も待てへん軟弱な男より、二年ついてこいっていう男の方がええんちゃうん」
 河西が大松にボールを押しつけます。
「いってくださいよ、先生。俺についてこいって」
 そして大松はついにいうのです。
「俺についてこい」
 しっかりと返事を返す選手たち。
 バレーボールの練習を見て田畑はつぶやきます。
「変わったのかなあ。変わったよね」
「何が」
 と、田畑の娘が聞きます。
人見絹枝や前原秀子の時代からさ」田畑は人見や前畑の姿を思い浮かべます。「少なくとも国を背負ってとか、そういうんじゃないじゃんねー。自分のためにやってんじゃんねー」
「だから格好いいんだよ」
 娘のあつ子がいいます。菊枝が言います。
「変わったんじゃなくて、変えたんです」
「ん? 誰が」
 とぼけて田畑が聞きます。あつ子と菊枝は笑い声をたてるのです。