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大河ドラマウォッチ「いだてん 東京オリムピック噺」 第42回 東京流れ者

 高度経済成長期の日本。暮らしぶりもずいぶんと変わってきます。冷蔵庫、テレビ、洗濯機などが家庭に普及していきます。しかし良いことばかりではありません。特に車の渋滞が問題化していました。
 昭和36年(1961)です。タクシー運転手の森西栄一(角田晃広)はデザイナーの亀倉雄策前野健太)と建築家の丹下健三松田龍平)を乗せていました。二人が聖火リレーのことを話しています。アテネから東京まで、聖火を運ぼうというのです。その調査隊を派遣する計画があるといいます。話を聞いていた運転手の森西はその計画に立候補するのです。
 大松博文(福井義実)率いる「日紡貝塚」の女子バレーボールチーム。大松が選手たちに活を入れています。
「ほんまに俺についてくるんか」
 選手たちはしっかりと返事をします。大松は河西昌枝(安藤サクラ)の実家をたずねます。娘さんを貸してくださいと、両親に頭を下げるのです。河西も一緒に頭を下げます。このように大松は、全選手の親元を訪ね歩き、親御さんの了承を得ていたのです。
 東京オリンピックの選手村は、朝霞に建設することにほぼ決定していました。しかし田畑政治阿部サダヲ)は、代々木をあきらめていませんでした。米軍基地のあるその場所を、アメリカと交渉して譲ってもらおうとします。ジャーナリストの平沢和重(星野 源)に協力を頼みます。
「私に考えがあります」と平沢はいいます。「アメリカ側のメリットとはなんでしょう」
 と、質問します。田畑の秘書である岩田幸彰(松坂桃李)が答えます。
「日本人の反米感情を緩和する」
 当時の日本は、日米安全保障条約に激しく反発し、連日のようにデモが起きていたのです。アメリカはこれ以上、日本との関係を悪化させたくないはずです。
 平沢はアメリカ大使館を訪ねます。ライシャワー駐日大使と話をします。
「米軍施設を返還するなら代々木でしょう。都心を返してこそのアピールです。そうすれば安保闘争による反米感情も、じきに収束するでしょう」
 その事実を知って、田畑の盟友であり、東京都知事の東良太郎は怒ります。朝霞で選手村の計画は進められていたのです。田畑は形ばかり謝ります。
「60億」
 と、大声を上げて割り込んでくる人物がいます。元大蔵大臣で東京オリンピック組織委員会会長の津島寿一(井上順)でした。アメリカは代々木を譲る代わりに、60億を要求してきたのでした。津島がいいます。
「池田君を紹介しようか」
 池田とは内閣総理大臣池田勇人立川談春)のことでした。昔、津島の秘書をしていたことがあったのです。経済のことは池田にお任せ下さいと、宣言し「所得倍増計画」を打ち出し、日本の高度成長期を牽引している人物です。
 田畑は津島に連れられ、首相官邸を訪れます。池田は計画書を見て笑い出します。
「60億は出せんよ、君」と、田畑にいいます。「ほっとけば代々木は5,6年で空き地になるんだろう。それもタダで」
 田畑はいいます。
「オリンピックは三年後です。今じゃなきゃ駄目なんですよ」
 池田は煙草に火をつけながらいいます。
「全部朝霞に持っていけばすむ問題じゃないのかね」
 体育館もプールも朝霞に作るというのです。
 料亭で、自民党幹事長の川島正次郎(浅野忠信)と都知事東龍太郎が話し合っています。
「津島はボンクラ。田畑はスタンドプレー。あの二人にオリンピックはまかせられんな」
 と、激しく川島は東に詰め寄ります。
 一方、田畑と岩田はバー「ローズ」で飲んでいます。バーのママ(薬師丸ひろ子)が聞きます。
「オリンピックの予算って、国が出すもんじゃないの」
 岩田が答えます。
「スタジアムやプールのように、あとに残るものに限って都と国が折半するんです」
 オリンピックが終わったあとも、国のために使えれば良いのです。
「上等じゃんねー」
 田畑の闘志に火がつきます。いてもたってもいられず、無人組織委員会に駆け込むのです。オリンピックが終わったあとも使えるものを考えようとします。田畑はそこで死んだ嘉納治五郎役所広司)の声を聞くのです。嘉納はたずねます。
「今度のオリンピックはどこでみればいいのかね。私じゃない。国民がだよ」
 テレビじゃないですか。と、田畑は答えてひらめくのです。その手が震えます。
「あるじゃんねー。オリンピックが終わったあとも使えるもの」
 田畑は再び首相官邸を訪れ、池田勇人に面会します。選手村の模型の上に、アンテナに見たてたソーセージを立てます。
「放送局です」
 と、田畑はいいます。
「いいことあるかね」
 池田は質問します。
「カラーテレビが売れます」田畑は説明します。「メイン会場のそばに放送局があれば、鮮明な映像を確実にお茶の間にお届けできます。そうなると、白黒よりはカラーテレビですわな。皇太子ご成婚の際に、白黒テレビが馬鹿売れして、莫大な経済効果を生んだ」
 田畑はカラーテレビをほしがる家庭の様子を演じて見せます。結びにいいます。
「はい、所得倍増」
「うまいね、君」池田は思わずいいます。「乗せられそうだよ」
 田畑は説明します。カラーテレビは一台60万円もする。一万台で60億。
「そう、60億」田畑は歩き回ります。「たった一万代で元が取れちゃう。買うなら今です。だって、オリンピック終わったあと、放送局作っても意味がないですからな」
 そして田畑は組織委員会に帰ってきて、皆に報告するのです。
「代々木に決まったよ」
 組織委員会の皆は歓声を上げ、拍手をするのです。東に謝る田畑。東はいいます。
「仕方ないよ。まーちゃん(田畑)のオリンピックだものね」
 その言葉に再び拍手が起こるのです。
 組織委員会に汚れた服装の男が入ってきます。両手に大きなトランクを持っています。聖火リレー調査隊の森西たちが帰還したのです。アテネからシンガポールまで二万キロを車で走ってきたのでした。
「どうだった」
 と問う田畑に、興奮して森西は報告します。砂埃と熱気で、全く前に進めない。タクラマカン砂漠は横断に半年かかった。サソリがうようよいる。
「あんなところで、松明なんて持って走ってごらんなさいよ」森西は叫びます。「ミイラになっちゃうよ」
 田畑は森西を抱きしめます。
「良く帰ってきた。よし、飲もう」
 田畑の音頭で酒盛りが始まると、役員から若いボランティアまで、みんなこぞって参加しました。払いは毎回、田畑のポケットマネーです。
 その頃、川島正次郎は、首相の池田悠人に話していました。
「オリンピックは経済成長の起爆剤ですよ。政府がこれを利用しない手はないでしょ。今のままでは、スポーツ界の連中の馬鹿騒ぎで終わってしまいます。これがもったいない。国際舞台で日本の株を上げる。そのためにもしっかりと政府が舵をとるべきだと思うんだよなあ、僕は」
 こうして「オリンピック担当大臣」が作られ、川島正次郎が任命されるのです。川島は記者会見で述べます。
「金が集められないから政府に泣きついてきたわけでしょう。200億かかるんですよ、東京オリンピック。道路を作るのは建設大臣。旅客を運ぶのは運輸大臣。選手強化は文部大臣。それらを総合的にまとめるのは誰ですか。僕です」