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『映画に溺れて』第249回 フォロー・ミー

第249回 フォロー・ミー

昭和四十九年四月(1974)
大阪 中之島 SABホール

 周防正行監督『Shall We ダンス』で、柄本明ふんする探偵の事務所に『フォロー・ミー』のポスターがさりげなく貼られていた。
 ピーター・シェーファーの戯曲『他人の目』の映画化で、舞台劇ではほとんど探偵の事務所だけだが、映画はカメラがロンドン中の街並みを動き回って素晴らしい。
 生真面目な英国紳士の会計士が、ウェイトレスをしていたアメリカ娘と結婚する。愛情はあるが、趣味も性格も全然合わず、いつしか倦怠期。
 しょっちゅう外出する妻が浮気しているのではないかと疑い、会計士は私立探偵に素行調査を依頼する。白いコートの探偵が依頼人の妻を尾行して、ロンドン中を歩き回る。
 妻は退屈な夫との仲がしっくりいかなくて、寂しさをまぎらわすため、毎日ロンドン中をあてもなく散歩しているだけなのだが、ふと気がつく。だれかが自分のあとをつけている。
 やがて、妻はこの自分のあとをついて回る白いコートの謎の男と一言も口をきかないまま心を通わせる。
 妻の役が若い頃のミア・ファーロー。探偵が『屋根の上のバイオリン弾き』のトポル。ロンドンの風景もさることながら、絶妙のキャスティングだった。主題歌もヒットした。
 今でも覚えている場面。ハマープロ風の怪奇映画を観ようとする彼女を、無言のままラブロマンスの上映館へ誘導する白いコートの男。
 かつて千石に三百人劇場という小さな劇場があり、劇団昴が一九八〇年代の後半、『他人の目』を上演したので観劇したが、舞台には映画とはまた違った味わいがあった。原題のパブリックアイは私立探偵を意味する。

 

フォロー・ミー/The Public Eye
1972 アメリカ/公開1973
監督:キャロル・リード
出演:ミア・ファーロー、トポル、マイケル・ジェイストン