日本歴史時代作家協会 公式ブログ

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大河ドラマウォッチ「麒麟がくる」 第三回 美濃の国

 天文十六年(1547)。織田勢が美濃に押し入りましたが、斎藤利政(後の道三)(本木雅弘)の計略によって勝利します。織田信秀高橋克典)を扇動し、美濃に攻め込ませたのは、美濃守護であり帰蝶川口春奈)の夫でもあった土岐頼純でした。頼純は織田を利用して、美濃の実権を取り戻そうとしたのでした。頼純は家臣である道三によって命を断たれます。
 その半年後、帰蝶明智光秀十兵衛(長谷川博己)のもとを訪ねます。帰蝶は医師、望月東庵の助手である駒(門脇麦)と親しく話していました。そこへ光秀の母であり、帰蝶の叔母でもある牧(石川さゆり)がやってきます。帰蝶は子供の頃、明智家に預けられ、一年ほどを過ごしていたのです。帰蝶は駒に、牧から聞いた狐の話を聞かせます。
 昔、村の若者が嫁探しの旅に出ます。野原で出会った少女を気に入った若者は、彼女と結婚します。若者と娘は、子供もできて幸せに暮らしますが、家にいる犬がいつも娘に吠えかけます。実は娘は狐だったのです。ある日、犬がひどく吠えて娘に迫り、娘は若者の前で狐の姿を見せてしまいます。娘はもはやここで暮らすことはできないと、子供を残して去って行きます。
 別れの時、若者が唄を歌ったのではないかと駒がいい出します。その唄を歌ってみせるのです。帰蝶と牧は驚きます。少し違いはあるが、ほとんどその通りだったのです。京から来た駒が、なぜ美濃に古くから伝わるその唄を知っているのか、と牧はたずねます。
「ある人から聞いたことが」
 と、駒は答えます。その人は美濃のお方ですね、と牧はいいます。そこへ光秀がやってきます。光秀に話があるという帰蝶
「夫の土岐頼純があい果てたいきさつを存じているか」と帰蝶は切り出します。「皆はどう思っている。それを知っておきたい」
 その事実を聞いてどう思ったのかを帰蝶は光秀に問います。
「やむを得ぬと」光秀は答えます。「理由はどうあれ、守護のお立場にある頼純様が、他国の手を借り、美濃はいくさに巻き込まれたのです」
「わかった」
 帰蝶は立ち去ろうとします。声をかける光秀。
「ただ、頼純様と、お父上である殿との間に立たれた帰蝶様のお気持ちは、誰もがよく承知をいたしております」
 部屋に残っていた駒のところに、光秀は立ち寄ります。
「不思議なお話をうかがいました」駒がいいだします。「私が子供の頃、火事に遭って、そこから助けてくれたお武家様のことをお話ししましたよね。そのお武家様、私を慰めようとしていろんな話をしてくださって」
 その武家が、牧の話した、狐の話と同じものを駒に聞かせていたのです。自分の命を助けてくれたのは美濃の人かもしれない、という駒。
「もしそうなら、そのお侍に会えるといいですね」
 という光秀。駒は大きくうなずきます。
 美濃の国の守護、土岐氏は、源氏の流れをくむ名家として、絶大な権力を持ち続けていました。しかし一族の内紛は絶えず、土岐頼武、頼純兄弟が守護の座を争うに至り、その権力は大きく衰えていました。
 土岐頼芸(尾見としのり)は、一度は守護になりましたが、今は美濃の実権を握った家臣の斎藤利政(道三)に支えられ、隠居同然の生活に甘んじていました。
 そんな土岐頼芸のもとへ、道三は側室の子、斎藤高政(伊藤英明)とともに訪れます。
「そなた、頼純を殺したそうじゃな」
 さりげない口調で道三にいう頼芸。
「わたくしが、頼純様を」と、驚いてみせる道三。「あのいくさを起こした張本人であることを恥じられ、みずから毒をあおられたのでございます」
 道三は頼芸に守護になってもらいたいと、頼みにやってきたのでした。頼芸はいいます。
「守護いようがいまいが、守護代のそなたがすべてを取り仕切っているではないか。今や土岐家はそなたの操り人形だとみんな申しておる。今さら守護など」
「お嫌でございますか、守護におつきになるのは」
 と、道三。
「まだそなたに毒は盛られたくはない」
 という頼芸に、表情一つ変えず道三はいいます。
「操り人形に毒は盛りません」
 道三と高政が去ろうとするとき、高政だけが呼び止められます。
「お母上の芳野殿にお変わりはないか」
 と、頼芸は高政に話しかけます。芳野は、もとはといえば頼芸のところにいた女性でした。
「そなたの父は当てにならんな」頼芸は小声で言います。「わしが頼りとするのはそなたじゃ。我が子同様に、頼りにしておるぞ」
 道三たちが帰ると、頼芸は顔つきを変えます。家臣たちを怒鳴りつけます。
「すぐに使いを出すのじゃ、織田信秀に。この美濃を、あの成り上がり者から取り返すのじゃ。織田に今一度出兵を促す。手立てはえらばずじゃ」
 稲葉山城に帰ってきた高政は、母親の芳野(南果歩)に頼芸のところに行ってきた報告をします。芳野はいいます。
「昔そばにいたおなごが、今になって懐かしゅうなって、さてもしくじった。家来にくれてやるではなかったと、ほぞを噛んでおられるのじゃ」
 高政は芳野に問います。
「私の父親は、まことにあの父上でございますか。私の父親は、頼芸様では」
「何をたわけたことを」激高するでもなく芳野はいいます。「そなたの父親は、まぎれものう殿じゃ」
 道三がいつの間にか立っていました。喜んで迎える芳野。高政は下がります。
 光秀は高政に呼ばれて稲葉山城にやってきます。高政は光秀に鉄砲を差し出します。道三が高政と光秀に鉄砲を調べることを命じていたのです。光秀は高政に鉄砲の価値を力説します。しかし高政は乗り気になりません。
「はっきりいうが、父上は余りこれに興味がないのだ。わしやおぬしにやらせるというのはそういうことだ」高政はさりげなく付け加えます。「取るに足らんものは、取るに足らん者たちにやらせてみるというわけだ」
 怒って出て行こうとする光秀を高政が呼び止めます。鉄砲から弾が飛び出すところを自分も見てみたい、話もある。
 道すがら高政は不穏なことをいいだします。十年後も道三があの城の城主でいるかどうかわからない。道三には先がない。高政はさらにいます。土岐頼芸は、すでに道三を見限っている。あてにしているのは自分だといっていた。
「わしは土岐様のそのお気持ちに乗ろうと思う。父上に代わって国を支える。そう遠くない先に、そうしたいと思う。わしがそなたにいいたいのは、その折には力になってもらいたいということだ。共に、この国を治めて欲しい」
 黙っていた光秀でしたが、ついに口を切ります。
「その話、しかとうけたまわった」
 どうすればよい国になるかとの高政の問いに、鉄砲の狙いをつけながら光秀はいいます。
麒麟がくる国に」
 鉄砲が火を噴き、的に吊したひょうたんが砕け散ります。