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大河ドラマウォッチ「麒麟がくる」 第八回 同盟のゆくえ

 天文十七年(1548)。明智光秀十兵衛(長谷川博己)は尾張の地にいました。斎藤道三(この時は利政)(本木義弘)の娘である帰蝶(川口春奈)に頼まれ、夫になるかもしれない男、織田信長(染谷翔太)のことを調べに来ていたのです。
 信長は小舟で漁に出ていました。明け方に帰ってきます。浜辺で魚を切り分け、人々に一文で売り始めました。人々が去り、光秀だけが信長の前に残されます。
「お前はいらぬのか」
 庶民に変装している光秀に信長は声を掛けます。身振りでいらないことを伝える光秀。信長は何かを感じたように光秀を見つめます。やがて信長は立ち上がると、漁師たちに気さくに声をかけて去ってゆきます。光秀は一人つぶやきます。
織田信長、奇妙な男じゃ」
 明智荘、光秀の館では、帰蝶が駒(門脇麦)と話していました。光秀との幼いころの思い出を語る帰蝶。駒がいいます。
帰蝶様は、今でも十兵衛(光秀)様をお好きでございましょ」
 帰蝶は答えずに逆に聞きます。
「そなたはどうじゃ」
 深くうなずく駒。
「困りました」
 という駒に対して、帰蝶は、言い聞かせるように話します。
「困ることはない」帰蝶は駒にお手玉を渡します。「十兵衛は今、尾張じゃ。尾張に行き、この帰蝶が嫁に行くかもしれぬ相手の良しあしを調べておる。相手の良しあしなどわかるわけがない。そう思わぬか。嫁に行かせたくないのなら、調べにはいかぬ。そう思わぬか。それゆえ、そなたが困ることは何もない」
 光秀が尾張から帰ってきました。しかし明智荘に入ろうとしません。不審に思った母の牧(石川さゆり)は様子を見に出ます。光秀は連なる畑を眺めていました。
「何を迷うておるのじゃ」
 牧は光秀に声を掛けます。見てきた信長の様子を話す光秀。
「あの男に嫁ぎなされとは。しかしこの国のことを思うと」
 牧は光秀の父のことを話し、いいます。
「人は消えても、あの山や畑は、変わらずそこにある。そのことが大事なことじゃと。変わらずあるものを守っていくのが、残されたものの務めかもしれんと」牧は言葉に力を入れます。「十兵衛、大事なのはこの国ぞ」
 光秀は帰蝶に会います。尾張に行ってきたと告げる光秀。
尾張は良いところか」
 と、帰蝶にたずねられます。
「海が美しいところでございました」
と、一言述べる光秀。
「海か。美濃には海がない。行って見てみるか」光秀を見つめる帰蝶。「十兵衛の口から聞きたい。行ってみるべし、と」
 光秀は絞り出すようにいいます。
「行かれるがよろしいかと」
「申したな。この帰蝶に」
尾張へ、おゆきなされませ」
 光秀は頭を下げるのでした。帰蝶はわずかに微笑みます。
「十兵衛が申すのじゃ。是非もなかろう」
 帰蝶稲葉山城に戻っていくのです。
「でかした十兵衛。そうか。帰蝶が行くと申したか」
 と、膝を打つ斎藤道三。光秀は叔父の光安とともに、稲葉山城に報告に訪れていました。道三は光秀にたずねます。
尾張で信長を見たそうじゃな。噂では相当のうつけ者じゃというが、まことか」
 光秀は答えます。
「風変わりな若殿(わかとの)とは思いましたが、うつけかどうかは判然といたしませんでした」
 道三は外を眺めます。
「これで帰蝶尾張に行けば、織田との仲は強固なものとなる。血を一滴も流さず、一歩も二歩も海に近づいた」
 道三は喜びの笑い声をあげるのです。
 帰りの廊下にて、光秀は男たちに取り囲まれます。道三の長男である高政が、話があるというのです。
 光秀は山道で高政と対面します。高政は、古くから美濃を支えてきた国衆を従えていました。光秀は前後から男たちに挟まれる形になります。高政が口を切ります。
帰蝶明智の館を出て、稲葉山へ戻ったとの知らせがあった。なにゆえ引き止めなかった。裏切ったな」高政は一人、光秀に近づきます。「一緒に来い。従わねば斬る」
 光秀が連れてこられたのは、美濃の守護である土岐頼芸尾美としのり)の館でした。部屋には高政を始め、国衆たちが並びます。頼芸は光秀の叔父である光安についていいます。
「この中に光安を好きなものはいるか」
 国衆たちは身動き一つしません。頼芸は笑い声をたてます。
「一人もおらぬのか。わしも皆と同じで光安を好きにはなれぬ。なにゆえかわかるか」頼芸は光秀を見つめます。「斎藤利政(道三)に、こびへつらう男だからだ」頼芸は声の調子を変えます。「しかしそなたは違う」
 土岐源氏につながることを誇りとする、気骨のあるもののふである、と光秀を持ち上げます。
「にもかかわらず」頼芸の口調は再び鋭くなります。「なにゆえ高政たちの意に反し、帰蝶稲葉山に戻した。帰蝶織田信秀の子に嫁ぎ、信秀と手を結ぶことになれば、信秀の大敵、今川義元と戦う羽目になる。それを利政(道三)の腹一つで決めてよいと思うか」頼芸は叫びます。「わしは利政の横暴を許さぬ」
 高政が光秀にいいます。
「今からでも遅くない。織田との和議を潰すのだ。帰蝶稲葉山から連れ出し、嫁入りを拒むのじゃ。それが、そなたの役目ぞ」
 皆が光秀に注目します。光秀は話し始めます。頼芸に尾張の熱田に行ったことはあるかとたずねます。ある、と答える頼芸。
「あのようににぎやかで大きな市(いち)は、この美濃では見たことはございませぬ。珍しき品々があふれるほどあり、尾張のものは皆それを次々に買(こ)うてゆく」光秀は港について話します。「たくさんの船が来て、諸国の産物を下ろし、市でさばき、また尾張仕入れた品々を他国へ運んでゆく。日々それを繰り返すことで、尾張は豊になる。そういう国と我らはいくさをしてきたのだと。いっそあの国と手を結び、あの港に自由に出入りをし、美濃の産物である織物や紙や焼き物を他国に運び、それで豊になれるのであれば。一滴の血も流さず、それができるのであれば、それはそれで、良いのではと」
 高政は激高しますが、頼芸はあくびをしはじめます。わしは寝る、と言い残して頼芸は座を立つのです。
 その夜、高政は、道三の側室である、母の深芳野(南果歩)のもとを訪れます。
「あの下劣な男が、それほどまでに怖いのですか」高政は道三のことを語ります。「金、金、金。すべて金で動く男ではありませんか。おのれの娘を、損得勘定で尾張などに嫁に出す。何の誇りもない、恥知らずではありませぬか」
 芳野は声を荒げます。
「自分の父親ではないか」
 怒鳴る高政。
「あれが父親なものか」高政は母に訴えます。「お願いです。まことのことをおっしゃってください。私の父は、頼芸様では。頼芸様も、我が子と思うているとおおせになりました。それがまことでございましょう」
「そう思いたいのなら、それで満足なら、そう思うがよい。ただ、それを楯として、殿に立ち向かうのはよしなさい」芳野は立ち上がって高政の背を抱きます。「いずれはそなたに家督は譲られるのじゃ。すべてはそれからぞ。母も、その時を心待ちにしておる。今は、じっと我慢じゃ」
 高政は酒を飲み干すのでした。
 光秀が明智荘に帰ってみると、何やらにぎやかな声が聞こえます。駒が京に帰るというので、村のものたちが来て、宴を開いていたのでした。
 翌朝、光秀は駒を送って共に歩いてゆきます。駒は光秀にいいます。帰蝶稲葉山に帰るとき、光秀は送っていかなかった。本当は自分より、帰蝶をこうして送っていきたかったのではないか。
「本当は、十兵衛様は帰蝶様を手放したくなかった。遠くへ行かせたくなかった。大好きだったから。だから、お見送りしなかった」
「そうやもしれぬ」
 という光秀。駒は光秀と別れ、一人歩いて行くのです。その後ろ姿を見守る光秀。
 天文十八年(1945)、二月。帰蝶は、織田信長に嫁いでいきました。両家の和睦が話し合われてから、わずか二にヶ月足らずの、慌ただしい嫁入りでした。
 その頃、今川義元片岡愛之助)は、美濃と尾張の同盟を知り、尾張への攻めどきを考えていました。
「織田といくさじゃ」
 と、義元は尾張への進軍を宣言するのです。
 一方、尾張那古野城に入った帰蝶は、部屋に一人残されていました。なんと夫となる信長が行方知れずとなっていたのです。