日本歴史時代作家協会 公式ブログ

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大河ドラマウォッチ「青天を衝け」 第16回 恩人暗殺

 慶喜(草彅剛)は朝廷から禁裏御守衛総督を申しつけられ、京のまつりごとの中心につきます。政治的基盤を固めるため、水戸藩へ人材の援助を要請するのでした。

 一橋家に仕える人選御用の命を受けた篤太夫吉沢亮)と成一郎(高良健吾)は、関東に向けて出発しようとします。二人は平岡円四郎(堤真一)に呼び止められます。平岡は二人を見送りにやって来てくれたのでした。平岡たちと篤太夫たちは茶を飲んでくつろぎます。平岡は妻の、やす(木村佳乃)に自分が息災なことを伝えてくれるように頼むのです。平岡はいいます。

「いい働き手、集めてくれよ。おぬしらもそうだが、攘夷か否かなんて上っ面は、今さらどうでもいい。要は、一途に国のことを考えているかどうか。全うに、正直に生きているか。それだけだ」平岡は篤太夫に、もとは武士でなかったことも忘れないようにしろと注意します。「侍は、米も金も生むことができねえ。この先の、日の本やご公儀は、もう武張った石頭だけじゃ、成り立たねえのかも知れねえ。だから渋沢、おめえは、おめえのまま生き抜け。必ずだ。いいな」

 篤太夫は、はっきりと返事をするのでした。

 血洗島にある篤太夫の生家に、千代(橋本愛)が知らせに走ってきます。千代の兄の惇忠(田辺誠一)に対して、篤太夫が手紙を書いてきたのです。栄一(篤太夫)と喜作(成一郎)が、京の一橋家で働いていることを知って皆は驚きます。篤太夫の伯父である宗助(平泉成)がいいます。

「どういうことだ。あいつら攘夷だとか、幕府を倒すだとかいってたんじゃねえのか」

 千代がいいます。

「文(ふみ)には、近くお役目で関東にいらっしゃると書いてあります。もしかしたら、故郷にも寄れるかもと」

 しかし、二人の思いを阻んだのは、水戸の騒乱でした。尊皇攘夷の実行を目指し、藤田小四郎率いる水戸天狗党が決起したのです。水戸藩徳川慶篤天狗党の討伐を命じます。

 天狗党筑波山に本陣を構えます。血洗島の惇忠のもとにも使いがやって来ました。使いは惇忠に軍用金を要求します。惇忠は気乗りがしません。水戸の藩主も承知でない、そして大義名分が明確でないからです。わずかな金を渡して、惇忠は使いの者を追い返します。

 惇忠はその後、岡部の陣屋に呼び出されたまま帰って来ません。そして尾高家は岡部の役人たちに取り調べを受けるのです。水戸の騒動との関わりが疑われているというのがその理由でした。末弟の平九郎までが連れてゆかれます。

 そしてその夜は、京でもまた、尊皇攘夷の志士の取り締まりが行われていました。池田屋と書かれた宿に、新撰組が入り込みます。二階で話し合う男たちのいる部屋に踏み込むと、一人を斬ってから言い放ちます。

「神妙にしろ。御用改めだ」

 尊皇攘夷の志士たちは、次々に斬られていきます。

 この池田屋事件新撰組を仕向けたのは、禁裏御守衛総督一橋慶喜であるとの噂が流れます。水戸藩士の二人は信じられません。このようなことを慶喜がするはずがないというのです。

「烈公のお子ともあろうお方がなんで」

 興奮する一人に、もう一人が言い聞かせるようにいいます。

「平岡だ。やはり佞臣(ねいしん)平岡は、水戸の手で除かねばならぬ」

 江戸では篤太夫と成一郎が、平岡の妻の、やす、を訪ねていました。京での平岡の活躍を報告します。やすは二人に礼をいうのです。

「ありがとね。約束通り、あの人のために尽くしてくれて」

 篤太夫たちは、関東にある一橋家の所領を手広く回り、儒学者や剣術家、才のある農民まで様々な人材を探しました。

 そして二人は大橋訥庵の主催していた、思誠塾跡地にやってくるのです。横浜焼き討ち事件にも参加してくれようとした真田範之助を訪ねるためです。そこにいた者たちは、武器の運び出し準備をするなどして、殺気立っていました。筑波山に向かい、水戸天狗党と合流しようとしていたのでした。真田と対面し、成一郎は自分たちが一橋家に仕官したことを伝えます。篤太夫は共に働かないかと誘います。篤太夫は回りの者たちにも呼びかけます。

「おぬしらも、俺たちと共に来ねえか」

「ふざけるな」と真田は叫びます。「何のたわごとだ。半年前まで、徳川を倒すと放言していたおぬしが、一橋の禄(ろく)を食(は)んでいるだと」真田は激昂します。「恥ずかしくはないのか」

 成一郎が真田にいいます。

「訥庵先生や天誅組の失敗を見ても分かるとおり、攘夷は、半端な挙兵では叶わねえ」

「半端だと」

 真田は成一郎の方に踏み出します。穏やかに篤太夫がいいます。

「喜作(成一郎)のいうとおりだ」篤太夫はまわりを見回します。「皆も聞いてくれ。俺たちが考えていたより、この世はずっと広い。攘夷のためにも、この国をより良くするためにも、挙兵より、俺たちと共に、一橋で働いた方がよほど見込みがある。一橋様のもとで、共に新しい国をつくるべ」

 篤大夫は言い終わらないうちに、真田に突き飛ばされます。皆が剣を抜いて篤太夫に突きつけます。真田がいいます。

「今すぐ失せろ。死にたいか」

 篤太夫はひるみません。

「俺はおめえにむざむざと死んでほしくねえ」

 真田は泣き笑いの表情を見せます。

「お前も、死ぬのが怖くなったのか。俺は」真田は成一郎も振り返り、叫びます。「お前らを、心底見損なったぞ」真田は仲間たちにいいます。「こんな奴ら、斬る値うちもない」

 宿で成一郎は名簿を見ていました。四十二人を数えます。

「おう、なかなか集まったぞ」

 と、篤太夫に声をかけます。篤太夫は天井を見上げたままです。そこに飛脚からの文(ふみ)が届くのです。篤太夫の父親である市郎右衛門からでした。惇忠が牢につながれたことなどが書かれています。

「故郷に立ち寄ることは、まず見合わせろ」

 と、市郎右衛門は結んでいます。二人は深く失望するのでした。

 水戸城では、軍備が整えられていました。

「水戸の恥は、水戸の手でそそがなければならん」

 というわけです。天狗党を討ちに出発します。

 京の屋敷では、慶喜と平岡が書面に目を通していました。

「水戸の内乱には困ったもんですな」

 と、嘆くように平岡がいいます。

「ひとつ、変なことを申すが許せ」慶喜は真面目に話します。「私は輝きが過ぎるのだ。親の光か家の光か何かはわからん」

 その輝きゆえ、多くの人々を引き付けることになった。慶喜は平岡を振り返ります。

「しかし、そんな輝きは本来ない。全くだ。全くない。おのれで確かめようと鏡を見ても、フォトグラフを見ても分からん。写っているのは、ただつまらなそうにこちらを見るだけの、実に凡庸な男だ。父も誰もかれも幻を見ている。そなたもだ。そしてこの幻の輝きが、実に多くの者の命運を狂わせた。私はただ徳川の一人として、謹厳実直に天子様や徳川をお守りしたいのだ」

 平岡が声を出します。

「ほかの誰にもいえねえ、突飛な、色男のような台詞でございまする」

「やはりいうべきではなかった」

 慶喜は立ち去ろうとします。平岡は追います。

「しかしその輝きは、この先も、決して消えることはありますまい」

 平岡は居ずまいを正します。この先もどこまでも、お供つかまつります、と深く頭を下げるのでした。

 雨の降る日でした。平岡は上機嫌で街を歩いています。二人の侍に斬りかかられるのでした。護衛の川村恵十郎(波岡一喜)によって、刺客たちは斬り殺されます。平岡はつぶやきます。

「死にたくねえな」

 平岡はうめき「殿」と天に手を伸ばします。そして最後に妻の、やす、の名を呼ぶのでした。平岡の手が落ちていきます。

 屋敷で慶喜は平岡の死を知らされます。賊は水戸の者でした。慶喜は渡り廊下を走ります。戸板に乗せられて運び込まれる平岡の骸(むくろ)と対面します。慶喜は雨に濡れるのも構わず、平岡の体に触れ、嘆きの声を放つのでした。