北条義時(小四郎)(小栗旬)が、後ろに女性を乗せて、馬で駆けています。三人の騎馬武者がそれを追います。
「姫、振り落とされないように気をつけて」
と、義時は後ろの女性に声をかけます。義時は前方に立ちふさがる武者たちを避け、森に逃げ込みます。
安政元年(1175)の伊豆。帝(みかど)を警護する大番役の勤めを終え、伊豆の豪族、北条時政(坂東彌十郎)が、三年ぶりに京の都から戻ってきました。
時政の帰還を祝い、多くの者がその館(やかた)に集まってきました。宴を離れて義時は、蔵の点検をしています。そこへ三浦義村(平六)(山本耕史)が入って来ます。
「お前、じさまの話は聞いてるか。えらい騒ぎになっているぜ」
「なにがあった」
と、義時は聞きます。
「都(みやこ)から流されて、じいさんのところで面倒を見ていた罪人いたろう」
「源頼朝? 」
「伊東の連中は今、必死になってあいつを追ってる」
「分かるように頼む」
「お前の大好きな伊東の八重さん」三浦は酒を飲みながら話します。「頼朝と八重さんは、じさまがいない間にできちまったんだ。勤めを終えて京から戻れば、娘が頼朝の子供まで産んでた。そりゃ、じさま、怒るだろう。平家に知れたらただではすまん。じさまは奴を殺すように家人(けにん)に命じたが、頼朝は館を抜け出した」
源頼朝(大泉洋)。かつては平家のライバルであった源氏一族の嫡流(ちゃくりゅう)です。十六年前、頼朝の父、為義の率いる源氏は、平清盛率いる平家と戦い、敗れました。清盛は、生き残った頼朝の命を助け、伊豆の国へと流します。その時、頼朝の監視役を命じられたのが、義時の祖父である伊東祐親(すけちか)(浅野和之)でした。清盛に目をかけられた祐親は、伊豆で、一番の力を持つようになっていきます。北条時政と、三浦義澄(佐藤B作)は、この祐親の娘たちをめとっていました。
義時は蔵で作業をしていました。そこへ兄の北条宗時(三郎)(片岡愛之助)が入って来ます。
「佐(すけ)殿のこと、どう思う」
「佐殿? 」
「頼朝殿だ」宗時は義時に近づきます。「佐殿が今、窮地に立たされている」
「耳には入っています」
「ならば話は早い。俺は、佐殿に手を貸す。じさまは清盛にすり寄って今の地位を築いたお方だ」
「兄上の平家嫌いはわかっています」
「だから俺は、源氏につく」
「しかし佐殿は、行方知れずと聞いています」
「今、この館にいる」
「ここにですか」
と、義時は驚きます。得意げな笑顔を見せる宗時。宗時は義時を頼朝に引き合わせます。
「これより我が弟、佐殿の手足となって、源氏再興に努めます」
と、宗時は勝手にいってしまうのです。困惑する義時。
敷地にある祠(ほこら)に手を合わせてから、義時は宗時に抗議します。
「話がおかしな事になってるじゃないですか」
宗時は語ります。
「京じゃ、清盛入道が、我が世の春といい気になってやがる。この坂東(ばんどう)だって、平家とつながる奴らが、人の所領を奪い、馬や女を奪い、甘い汁を吸っている。小四郎、俺は佐殿の力を借りて、平家をぶっ潰すぜ」
それを聞いて義時は笑い出します。
「話が大きすぎます」
「おいおいの話だ」
兄が行った後、義時は三浦を蔵に呼びます。
「頼朝がこの館にいるのか」
と、三浦は驚きます。義時は三浦の声を制し、小声で聞きます。
「教えてくれ。佐殿が立ち上がれば、平家の世はひっくり返るのか」
「無理だ」三浦は吐き捨てるようにいいます。「源氏の嫡流と入っても、今は源氏そのものが散り散りだからな」
「やはりそうか」
「罪人だから、官位だってとっくに召し上げられてるはず。だいたい頼朝をかくまったら、じさまが黙ってないだろう」
義時は和田義盛(横田栄司)と、畠山重忠(中川大志)と行き会います。二人は宗時に頼まれ、頼朝の警護に就いたのでした。義時は二人を蔵に呼び込みます。兄の宗時もやって来ます。
「何がそんなに気に食わん」
と、宗時が義時に問います。
「なにもかも」
と、義時は答えます。宗時は宴の席に戻ろうとします。
「本気で挙兵するおつもりなのですか」
と、義時は聞きます。和田が代わりに答えます。
「平家をこの坂東から追い払うんだ」
義時は聞きます。
「教えてください。何がそんなに不満なのですか」
今度は畠山が答えます。
「小四郎殿は、平家の世がずっと続いてもいいというのですか」
「だって結構、穏やかに過ごせているではないですか」
和田がいいます。
「俺の知ってる奴で、平家とつながりのある奴らは、だいたい嫌な奴だぞ」
「それはたまたまその人が嫌な人だった……」
「お前には何も見えてない」宗時は言い放ちます。「もういい。決めたことだ」
義時は食い下がります。
「父上に話したんですか」
「まだだ」
と、あっさりと宗時はいいます。義時は和田と畠山を帰らせます。
宗時が出かけようとします。
「どちらへ」
と、義時が呼び止めます。
「伊東の館だ。八重殿と若君を連れてくるんだよ」
「何をいっているんですか」
「佐殿と約束したんだよ」
「そんなことを、じさまが許すはずがない」
「その時は、力尽くで奪い取るのみ」
「父上には話したんですか」
「お前、いっといてくれ」
義時はあきれかえります。
「これだよ」
そこに妹の実衣(宮澤エマむ)がやって来て、姉の政子が頼朝にぞっこんだと伝えます。そこへじさま、伊東祐親がやって来たという知らせが入るのです。
「まずいな」
と、うろたえる義時。
祐親は義時の父である北条時政と話します。
「あの男だけは許せん。源頼朝」
時政は聞きます。
「まだ見つからんのですか」
全く行方が分からないと、祐親の息子が言います。
「時政、もしも頼朝が助けを求めてきたら、こうするのだ。一旦受け入れ、その足ですぐにわしに知らせる。よいな。それをいうために立ち寄った」
「我らも明日の朝、兵を出して、領内をしらみつぶしに探すことにいたします」
義時は頼朝から、伊東の娘に届けてくれと文(ふみ)を渡されます。
時政は子どもたちを集めて話をします。
「このたび、じさまの仲立ちで、嫁を取ることになった」
公家の娘で、りく、といい、向こうが自分を見初めた、と時政は説明します。義時は、機嫌のいい今が、打ち明ける絶好の機会だと思いつきます。姉と妹を下がらせ、兄の宗時と頼朝のことを話します。さすがに時政は怒ります。
「馬鹿野郎。何てことをしてくれたんだ。じさまはやっきになって佐殿を探しておられる。今さらうちにいましたって、いえるわけねえだろう」
宗時が声を響かせます。
「佐殿は、ほかに行き場がなかったのです」
「野良犬を拾ってくるのとは訳が違うんだ」
「あのお方が立ち上がれば、必ず多くの坂東武者がついてきます。今の世に不満を持つ者たちが、佐殿のもとに集まるのです。平家の世の中をひっくり返すのですよ。父上は、今のままでよろしいのですか。平家に近い者のだけが力を持ち、そうでない者がしいたげられる、あまりに理不尽」
「悪いが全く耳に入らん」
時政は駄々をこねるようにします。しかし結局、息子たちと頼朝に会うのです。頼朝はいいます。
「長居するつもりはない。ほとぼりが冷めれば出ていく。今は流人(るにん)の身の上だが、この源頼朝、おぬしらに受けた恩、決して忘れん」
時政は頭を下げます。部屋を出ると時政は上機嫌です。
「割といい奴だったな。やっぱり源氏の嫡流ともなると、言葉に重みがある」
宗時は置いてもらえるかと時政にたずねます。せいぜいこれだな、と時政は三本の指を立てます。
「三月(みつき)」
「三日じゃ」
義時は八重に会いに伊東の館に来ていました。八重に頼朝からの文(ふみ)を渡します。すると八重はすぐに支度を整えるといい出します。馬や輿は、とたずねます。そんなものは用意していないと義時がいうと、八重は責めるような口ぶりになります。
「では、あなたは何しに来たのですか」
義時は歯切れ悪く言い訳します。
「今は離れ離れでも、いつかまた共に暮らす時が来ることを願うと、そういうことではないですか」
義時は帰り際、祐親に呼び止められます。
「ここに来た本当の訳を申せ」
と、問い詰められるのです。八重に会いに来たのか。頼朝は北条の館にいるのか。との質問に、義時は黙っていることしかできません。
「今すぐ頼朝を引き渡せ。さもなくば、力づくで取り返すまでじゃ。帰って時政にそう伝えよ」
帰り道を急ぐ義時でしたが、八重と頼朝の子である千鶴丸の服をもって川岸にたたずむ、伊東家の下人の姿を目撃してしまうのでした。
北条の館では武者たちが、形だけでも頼朝を探し出そうと武装していました。たどり着いた義時は大声で知らせます。
「伊東の兵がこちらに向かってきます」
「じさまに悟られたのか」
と、宗時が聞きます。義時は兄に近づきます。
「佐殿を引き渡しましょう」
「馬鹿を申せ」
義時は八重と頼朝の子が殺されたことを告げるのです。
「怖いお人なのだ。じさまというお方は」
と、つぶやくように宗時はいいます。
「じさまは、平家の敵となれば身内でも容赦はしません。このままではいくさになります」
「受けて立つまでだ」
義時が頼朝のところに行くと、姉の政子とすごろくで遊んでいました。姉を追い出し、義時は頼朝と話します。
「私はこれまで、何度も死を目の前にしてきた」頼朝の声は落ち着いています。「しかしその度になぜか生き延びた。天は、必ず私を生かしてくれる。なにゆえか、それは分らぬ。おそらくはまだ、この世に為すべきことがあるのであろう。私にいえるのはそれだけだ」
ついに伊東の軍勢がやって来ます。
「頼朝がいるのは分かっておる。今すぐ引き渡せ」
と、伊東の軍勢から声が上がります。矢倉に立った宗時が返答します。
「そのような者、ここにはおりませぬ。兵を引き、すみやかにお帰り願いたい」
驚いたことに時政が矢倉に登ってくるのです。時政は宗時に小声で伝えます。
「こうなったら、わしは腹をくくったわい」時政は祐親に呼びかけます。「佐殿がおれば、引き渡しもしましょう。しかし、いない者を渡すわけにはいきません」
「しらばっくれるのもほどほどにせよ」
時政の声色が変わります。
「わしがおらんといえばおらんのだ。お帰りくだされ」
その頃、義時は頼朝を逃がそうとしていました。政子が女ものの服を持ってきます。頼朝はそれに着替え、
「皆の者、これよりわしを姫と呼べ」
と、すっかり乗り気です。義時が頼朝を後ろに乗せて、馬で走り出します。見張りについていた伊東の兵がそれを追うのです。
時代の変わり目が、近づこうとしていました。平家の総帥、平清盛。神戸に港を開き、宋との貿易で、莫大な富を得ています。今が絶頂の時でした。
やがて、平家討伐の先陣を切って京へ乗り込む木曽義仲。この時はまだ、信州の山奥に隠れ住んでいます。
東北の地に、大都市、平泉を築いた、奥州藤原氏は、三代目、秀衝(ひでひら)の時代。平家も一目を置く、勢力を誇っています。この時期、秀衡の庇護を受けていたのが、後の天才軍略家、源義経でした。やがてこの若者が、平家を滅亡に追いやることになるのです。
そして、謀略をこよなく愛し、日本一の大天狗といわれた後白河法皇。長年朝廷に君臨してきた後白河と、清盛との蜜月は、間もなく終わろうとしています。
この国の成り立ちを根こそぎ変えてしまった、未曽有の戦乱が、目の前に迫っていました。