大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第13回 幼なじみの絆
政子(小池栄子)の父である北条時政(坂東彌十郎)が伊豆へ帰ることになります。義時(小栗旬)や政子たちの前で、時政はいいます。
「やんなっちまったんだよ。何もかもが。悔やんではおらん」
頼朝のもとへ源行家(杉本哲太)がやって来ます。行家は所領をくれ、といいだします。平家とたびたび戦ってきたのがその理由です。頼朝はいいます。
「金輪際、この鎌倉に足を踏み入れないでいただきたい」
行家は食い下がります。
「良いのか。木曽の所に行っても。わしが義仲と組んだらどうなるか」
頼朝はきっぱりといい切ります。
「痛くも痒(かゆ)くもなし」
「行家殿はああ見えて、公家とのつながりも深い。木曽殿と組めば、思わぬ力となります」
頼朝は聞きます。
「木曽は今どうしておる」
「信濃に留まったままです」
と、義時が答えます。
「なぜ動かん」
今度は大江が答えます。
「木曽殿は北陸からの食糧を押さえております。都の平家を干上がらせるおつもりでは」
「かなりの強者(つわもの)のようでございますなあ」
頼朝がいいます。
「このままでは、木曽に手柄を奪われてします。兵糧(ひょうろう)は」
と、頼朝は義時にたずねます。
「京へ攻め上るまでの蓄えはこざいますが、その先、都で持ちこたえるのは、難しいかと」
大江がいいます。
「奥州の動きも気になります」
頼朝が義時の方を向きます。
「秀衡(ひでひら)が会津まで南下してきたという噂はどうなった」
「真偽(しんぎ)はつかめておりません」
大江がいいます。
「秀衡殿のことがある以上、たやすく鎌倉を離れるわけにはいきません」
頼朝は秀衡を呪い殺すために、弟の阿野全成(新納慎也)に、祈祷をさせていました。大江が、清盛を呪い殺したとされる男が京にいると述べます。
「すぐに呼び寄せろ」
と、頼朝は命じます。
信濃国に木曽義仲(青木崇高)がいます。頼朝にとっては従兄弟に当たります。この時、義仲は源氏の一門の中で、頼朝に勝るとも劣らない勢力を持っていました。信濃にやって来た行家がいいます。
「今すぐ京に攻め上るのだ」
義仲は落ち着いた声を出します。
「叔父上。なにゆえ急がれる」
「あの糞生意気な頼朝に、先を越されたくないのじゃ」
「平家は潰す。俺がこの手で。しかし今ではない」
行家は身を乗り出すようにします。
「義仲、そなたこそが源氏の嫡流(ちゃくりゅう)。わしと共に京へ上り、平家を倒し、源氏の世をつくろうぞ」
義仲は返事をしませんでした。
伊豆の北条館に三浦義澄(佐藤B作)と、その息子の義村(山本耕史)がやって来ます。
「わしは帰らん」
と、時政は義澄にいいます。
「そういうな。御家人の間じゃあ、鎌倉殿に物申したお前の人気がうなぎ登りだ」
と、義澄にいわれ、時政は悪い気がしません。
「そうなのか」
「逆に鎌倉殿は、亀の一件で、すっかり味噌をつけちまった。上洛どころではない」
江間の館にいる八重(新垣結衣)に、義時が魚や海老を手に持ち、会いに来ていました。
「ちょっと寄っただけですから。これ、置いときます。焼いて食べたらうまいです。お口に合わなかったら、誰かにあげてください。では」
義時は立ち去ります。
甲斐から、武田信義(八嶋智人)が鎌倉にやって来ていました。頼朝にいいます。
「木曽義仲の事じゃ。近頃ようその名を聞く。どういうわけか、源行家を預かっておるそうだ。その行家の入れ知恵で、義仲は平家に近づこうとしているという噂だ。いずれ、平家と組んで、この鎌倉に攻め入るとか来ないとか。面倒になる前に、義仲を何とかなされよ。わしは東海道に巣くう平家の残党が暴れて動きが取れん。頼みましたぞ」
信義が帰った後、頼朝はつぶやきます。
「どこまで信じて良いものか」
義時がいいます。
「あの方の言葉に、まことはありませぬ。武田殿は、一門の姫を木曽殿の嫡男に嫁がせようとして断られたとか。恐らくその腹いせかと」
比企能員が発言します。
「木曽殿は同じ源氏。よもや攻めてくるとは思えません」
大江広元がいいます。
「ここは木曽殿に、じかに真偽を確かめましょう」
「どうやって」
と、頼朝が大江に聞きます。
「軍勢を信濃に送るのです。平家との噂が偽りなら、その証(あかし)に、人質を出せと迫ります。断れば噂はまこと。そのまま攻め込んで、木曽殿の首をとる」
そこへ、京から呼び寄せていた祈祷師が到着したとの知らせが入ります。会ってみると、以前、頼朝がインチキだと追い払った、文覚(もんがく)(市川猿之助)でした。文覚は張り切って祈祷に励みます。
義時は三浦義村に、
「まあ、あいつらの話も聞いてやってくれ」
と、呼び出されます。義時は坂東武者たちに囲まれ、その不満を聞くことになります。和田義盛(横田栄司)が叫びます。
「解(げ)せねえんだよ」
和田を押しのけて、野村義澄が発言します。
「平家討伐は良い。この坂東に攻めてくるなら受けて立とう。でもな、今度のは違う。源氏どうしのいさかいだ」
和田が義澄を押しのけます。
「なんで俺たちが付き合わなきゃならねえんだ」
岡崎義実(たかお鷹)がいいます。
「わしらは鎌倉殿のためなら、何でもするって訳じゃねえんだ」
義時が皆に話します。
「このたびの一件、軍勢を率いていくのは、あくまで形だけです」
「軍勢を率いていけば、向こうは攻めてきたと思います。いくさにならないと約束できますか」畠山は義時に近づきます。「小四郎、このままでは皆の心は、鎌倉殿から離れていきます」
和田が義時に迫ります。
「もう、うんざりなんだよ」
千葉常胤(岡本信人)がいいます。
「そばめにうつつを抜かし、舅(しゅうと)にも愛想を尽かされるようでは、坂東武者のあるじとはいえん」
自分たちの思いを、頼朝に伝えてくれと義澄が訴えます。
義時はこのことを頼朝に報告します。
「勝手なことばかり抜かしよって」
と、頼朝は嘆息します。話題は木曽の件に移ります。大江が発言します。
「ここは使者を送り、木曽殿の本意を問うだけにいたしましょう。いくさをするかどうかは、その先の話」
頼朝がいいます。
「仕方ないな」
義時が問います。
「使者にはどなたが」
頼朝が答えます。
「身内に行かせよう。蒲冠者(かばのかじゃ)(源範頼)(迫田孝也)がよい」
夜、謹慎中の義経が、連れて行けとせがんできます。根負けした義時は、出発の日時を伝えてしまいます。
江間の八重のもとを義時はまた訪れていました。今回は山菜を携えています。立ち去ろうとする義時に、八重がいいます。
「小四郎殿、私、つらいです」八重は抗議します。「勝手すぎます。あなたはそれで良いのかも知れないけど」
義時は八重を見つめます。
「鎌倉殿の命で、信濃に行きます。なるべく早く戻ります」
「小四郎殿」
「私は好きなんです。八重さんの、笑っている姿が」
「笑えないです」
「いつか、八重さんに笑いながら、お帰りなさい、といって欲しい」
「笑いながらいう人なんていません」
「だから、また来ます」
義時は八重のもとを後にします。
義経は兄の範頼に、信濃行きに加えてもらえることになったと報告します。その場に、比企能員が、娘たちを連れてやってくるのです。比企は娘たちを通して、源氏に近づこうとしていました。
「鎌倉殿のお許しもなく、このようなことは困ります」
と、範頼は席を立ってしまいます。義経も立ち去ろうとしますが、娘の一人から目を離すことができませんでした。
翌朝、信濃行きの一行は、義経が来ないため、置いて出発することにします。
義経は比企の娘と朝まで過ごしていたのでした。約束の時間が過ぎたことに気付き、義経は悔やみます。
範頼や義時は、信濃の木曽義仲(青木崇高)の陣にやって来ていました。そこへ源行家が顔を出すのです。
「義仲はどこぞの誰かと違って、わしのの事を大事にしてくれる。逃がした魚は大きいぞ」
笑い声をたて、行家は去って行きます。木曽義仲が戻ってきます。客人に振る舞うために、川魚を釣りに行っていたのでした。宴の席で、義仲はいいます。
「源氏が一つになり、平家を滅ぼす。これが俺の望みだ」
義時は疑いをぶつけます。
「平家と通じているという噂が流れています」
「俺が北陸に兵を進めたのは、東海道へ向かえば、頼朝殿や、甲斐武田とぶつかる。それを避けるためだ。答えになっているか」
腹を痛めて厠に立った範頼にかわり、義時が切り出します。
「鎌倉殿は、平家と通じてはおらぬ証(あかし)に、人質を差し出すようにと申しております。行家殿ではどうでしょう」
「叔父上は渡せん。どんな男かは関わりない。俺は自分を頼ってきた者を、追い出すようなまねはできぬ、ということだ。息子でいい」
「御嫡男を」と、義時は驚きます。「引き換えに何を」
「何も要らん。これが俺のまことだ」
その頃、頼朝は、亀のいる小屋を訪ねていました。
「久しぶりである」
しかし小屋の隅には、政子が腰を下ろしていたのです。頼朝は黙って引き上げます。
頼朝が行った後、亀は政子にいいます。
「家まで焼き払って、まだ足りない」
「足りません」
亀は政子の正面に座ります。
「では私、手を引きます」
「そうして下さい」
亀は歌を朗じ始めるのです。
「伊豆の小さな豪族の家で育った行き遅れがさあ、急に御台所(みだいどころ)、御台所って。勘違いしてもしょうがないけど。大事なのはこれから。自分が本当に鎌倉殿の妻としてふさわしいのか、よく考えなさい。足りないものがあったら、それを補(おぎな)う。あたしだって文筆を学んだのよ。あなた、御台所と呼ばれて恥ずかしくない女になんなさい。憧れの的なんだから。坂東中の女の。そんな風に考えたことあった」
「考えたことありませんでした」
「では、よろしくお頼み申します」
亀は深く頭を下げるのでした。
頼朝は今度は八重を訪ねます。しかし迫ろうとして、噛みつかれるのです。実はその光景を、義時は隠れて見ていました。頼朝が去ると、信濃土産を持って、八重に近づきます。
「なぜです」
と、八重はいいだします。頼朝と何があったのかとなぜ問い詰めないのか。義時はキノコをすすめた後、いいます。
「どちらでも良いのです。ここに鎌倉殿を招き入れたとしても、私はかまいません」義時は改めて座ります。「私と八重さんは、幼なじみ。私の想いは、あの頃からずーっと変りません。私はそれを大事にしたい。八重さんに振り向いてもらいたい。そんな大それた事はもう、考えません。振り向かなくてもかまわない。背を向けたいのなら、それでもいい。私はその背中に尽くす。八重さんの後ろ姿が幸せそうなら、私は満足です。しばらくここには戻りません。八重さんはどうか、ここにいてください。あなたはやっぱり、伊豆の景色がよく似合う。伊東の館にアジサイを届けたあの日から、ずっとそう思っておりました。帰ります」
義時は立ち上がろうとします。そんな義時に八重は声を掛けます。
「待って。小四郎殿」八重は義時に対して三つ指をつきます。「お役目、ご苦労様でございました」そして微笑むのです。「お帰りなさいませ」
義時はどぎまぎした表情で、八重の前に座ります。目に涙を浮かべ、いいます。
「ただいま帰りました」