大河ドラマウォッチ「鎌倉殿の13人」 第7回 敵か、あるいは
平清盛(松平健)は幽閉されている後白河法皇(西田敏行)を訪ねていました。
「大庭景親によれば、源頼朝は謀反(むほん)の兵を挙げ、伊豆の目代(もくだい)の首をとった由(よし)にございます」と、清盛は語ります。「その後の頼朝は、恐れ多くも、政(まつりごと)を我が手でするかのごとき振る舞い。しかしながら、大庭の軍勢が先月23日、相模は石橋山にてこれを攻め、完膚なきまでに叩き潰したとのこと」
「頼朝はどうしているのですか」
と、法王の愛妾(あいしょう)である丹後局(鈴木京香)が聞きます。
「死んだ」と、清盛は答えます。「兵を挙げてみたものの、あっけない最後でございましたなあ」
帰りの渡り廊下で、清盛の後継者である平宗盛(小泉孝太郎)が福原への遷都について批判します。さらに頼朝が生きているとの情報を伝えるのです。
「必ず殺せ」
と、清盛は声を荒げます。
その頃、安房国(あわのくに)では、北条義時(小栗旬)と和田義盛(横田栄司)が、上総広常(かずさひろつね)(佐藤浩市)を味方につけようと、その館に向かっていました。
上総に会い、和田はいいます。
「どうか、我らの軍勢に加わっていただきたい」
「気に入らねえな」と、上総はいいます。「なんでここに頼朝が来ねえんだよ。ザコどもとじゃ、話はできねえ」
義時が発言します。
「本日はごあいさつ。話が進んだところで、佐(すけ)殿が直々(じきじき)にこちらに参られる手はずになっております」
「こう見えて、俺は素直な男でな」上総は立ち上がります。「素直な男は損得で動く。頼朝に付いたらどんな得があるのか教えてくれよ」上総は部屋に入ります。「上総広常を甘く見ちゃ困る。俺を味方に引き入れてえのはお前たちだけじゃねえんだよ。さっきまで、そこに誰が座ってたと思う。梶原景時(中村獅童)だ。大庭の使いだよ。こないだ大庭の奴らが無礼を働いたんでな、こらしめてやったんだ。そのお詫びだとよ。俺はまだ、どっちに付くか決めちゃいねえ。だが、はっきりしてることが一つだけある。このいくさ、俺が付いた方が勝ちだ。さあ、正念場だよ。ザコさん方よ。というわけで、こっから先は、双方で話し合ってもらおうか」
上総が扉を開けると、そこに梶原景時がいたのでした。互いに斬り合うかという緊張感の中、義時が上総に訴えます。
「まもなく平家は滅びます。これからは源氏の世。佐(すけ)殿が源氏を再興されるのです。ぜひとも、上総殿のお力を……」
上総は言葉をかぶせます。
「だから、得は何かって聞いてんだよ」
義時は続けることができません。梶原が発言します。
「大庭殿は、平相国様の、お覚えめでたい。大庭殿が動けば、上総殿のお望みの官職に、例えば、左衞門丞に取り立てていただくこともできまする」
「悪かねえな」と、上総は反応します。そして「そっちは」
と、義時たちに呼びかけるのです。和田が話します。
「我らの側(がわ)に付いて下さった暁(あかつき)には、敵から奪った土地を、お望みの分だけ差し上げましょう」
「悪いがなあ、増やしてもらわなきゃやっていけないほど、ウチは困っちゃいねえんだよ」
そういう上総に義時は語ります。
「はっきり申し上げて、我らに付いても、得はないかも知れません。しかし、これだけは分かっていただきたい。我らは、坂東武者のために立ち上がったのです。平家に気に入られた者だけが得をする。そんな世を改(あらた)めたい。我らのための坂東をつくる。だからこそ、上総広常殿のお力を貸していただきたいのです」
「つまり、頼朝はお飾りという訳か」
「そういうことでは」
と、義時は慌てます。
「お前は今、そういったんだよ」上総は梶原に同意を求めます。「なあ」
「魂胆(こんたん)が見えましたな」
と、梶原。上総は義時に問います。
「教えてくれ。頼朝は、利用する値うちのある男か」
義時ははっきりと答えます。
「はい。あの方は天に守られています。現に、何度も命を救われています。そして、その運の強さに惹かれて、多くの者が今、集まっています。佐(すけ)殿は、担ぐに足る人物です」
義時と和田は館を後にします。そして大庭の元に帰る梶原と遭遇するのです。義時は梶原に呼びかけます。
「佐(すけ)殿からうかがっております。石橋山ではありがとうございました」
義時は和田に説明します。隠れていた頼朝を、梶原は見逃してくれた。義時は馬上の梶原に問います。
「うかがってもよろしいですか」
「なぜ助けたか」
「はい」
「あの時、大庭勢は目と鼻の先に先にいた。にもかかわらず、わしのほかは、誰も頼朝殿には気づかない。そなたは、かのお人が天に守られていると申した。わしも同じことを感じた。殺しては、神罰を受けると思った。答えになっておるかな」
義時はうなずき、梶原に呼びかけます。
「佐(すけ)殿のもとに来ませんか」
「刀は、斬り手によって名刀にもなれば、なまくらにもなる。決めるは斬り手の腕次第」
そういって梶原は去って行きます。
しびれを切らした頼朝は、上総の返事を待たずに北上を始めます。
その頃、相模の大庭は、都から追討軍が到着する前に、自分たちの手で頼朝を討ち果たそうとしていました。大庭は付近の豪族に頼朝を攻撃させることを思いつきます。
義時は再び上総を訪ねていました。
「頼朝を担いで、坂東を取り戻す。悪かねえ」上総がいいます。「だけどなあ、それだけじゃ腰を上げるあげる訳にはいかねえんだ」
義時は考えてから話し出します。
「私は次男坊です。兄は、北条のため、そして佐(すけ)殿のために力を尽くし、討ち死にしました。私は足を突っ込みたくはなかった。米倉で木簡(もっかん)の整理をしている方が性に合っていた。しかし、兄の想いを引き継いでようやく分かったのです。こんなに面白いことはないと。平家隆盛(りゅうせい)のこの時、平相国を向こうに回して謀反(むほん)の兵を挙げる。奴らを西に追いやり、新しい坂東をつくるのです。愉快だとは思いませぬか」
「愉快でもなあ、捕らわれて、首をはねられたらおしまいなんだよ。お前、必ず勝てるってここで誓えるか」
「誓います」
「言い切ったな」
「ご自分でおっしゃったではないですか。上総殿が加わってくだされば、必ず勝てると」
義時の言葉に、上総は笑い声をたてます。そこへ知らせが入ってくるのです。頼朝のいる宿が今夜襲撃される。義時は駆けつけようとします。それを制する上総。
「お前はここにいるんだよ。俺と一緒に様子を見ようじゃねえか」上総は家人を呼んで義時を妨げます。「頼朝は天に守られてる。そういったよな。だったら、今度も助かるはずだ。違うか」
頼朝は地元の漁師の娘と、床を共にしていました。頼朝の宿に、松明を持った一団が近づいてきます。それを率いるのは、頼朝と共にいた女性の夫でした。頼朝は隠れます。そしてそこへ、大庭から要請を受けた地元の豪族が襲撃にやってくるのです。豪族たちと、女の夫たちが乱戦となります。そして頼朝を警護していた三浦義村(山本耕史)が、豪族の首を狙うのでした。
翌朝、上総の館に、頼朝が生きているとの知らせが届きます。
頼朝の宿に、義時が報告にやってきます。
「上総殿が参陣いたします。今、和田殿と共にこちらへ向かっております」
それを聞いて頼朝は立ち上がります。
「ようやった小四郎(義時)」
上総の迎えに、義時はやって来ます。上総は座って日を浴びていました。上総は義時にいいます。
「俺の軍勢を見ろ」上総は義時にいいます。「その数2万。いくさの支度は整ってる」
「佐(すけ)殿がお待ちです。お急ぎください」
「これがどういうことか分かるか。頼朝は、太刀を突きつけられたのさ。喉元にな」
上総は出発します。
上総は頼朝を前にしていました。
「帰れ」と、頼朝はいいます。「遅い。わしは昼前からおぬしをここで待っておった。無礼にも程がある。帰れ。遅参する者などいくさ場では役に立たん。お前の連れてきた軍勢を見た。敵に回ればこれほど恐ろしいことはない。しかしだからどうした」頼朝は声を張ります。「じらしておのれの値うちをつり上げようとしたか。笑わせるな。さっさと帰れ。一戦を所望(しょもう)なら受けて立とう」
上総は遅参をしたことを詫びるのでした。
義時は軍勢と共に進む上総を呼び止めます。上総はいいます。
「頼朝に伝えおけ。よくぞ申したと。棟梁(とうりょう)の器にあらずと見れば、わしはあの場で討ち取り、その首、平家に差し出すつもりであった」
「そうだったのですか」
「なかなかの男よのう。源頼朝」上総は馬を進めます。「これで平家も終わったぞ」
ちょうどその頃、奥州では、後に天才軍略家として、平家を滅亡に追いやる源義経が、頼朝の軍に加わるために、旅立とうとしていました。