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大河ドラマウォッチ「いだてん 東京オリムピック噺」 第9回 さらばシベリア鉄道

 今週も軽くツッコんでいこうと思います。
 新橋の駅を出発した金栗四三中村勘九郎)と三島弥彦生田斗真)は監督の大森夫妻と共に、オリンピック開催の土地、ストックホルムを目指します。その距離八千キロ。十七日間の長旅です。
 団長で旅に同行するはずだった嘉納治五郎役所広司)は、汽車に乗り遅れ、追いかけようにも文部相の許可が下りないありさまでした。
 福井県駿河で一行は船に乗り込み、日本を後にします。嘉納はついに追いついてきませんでした。
 ウラジオストックからシベリア鉄道に乗り込みます。
 食堂車に行こうとした弥彦と四三でしたが、監督の大森(竹野内豊)に止められます。倹約のために、基本は自炊にするというのです。大森の妻の安仁子(シャーロット・ケイト・フォックス)が、缶詰やアルコールランプを持ってきていました。
 しかし同室となったドイツ人に誘われ、初日は食堂車で食べることになりました。その価格にびっくりする大森。四三はまわりの外国人たちを見回します。こういう連中と自分は戦うのか、と彼らを観察します。ドイツ人は堂々として動じず。ロシア人は粗大でじつに大陸的。米国人は快活そうで気持ちの浅そうな連中。フランス人は老獪にてわからず。そして日本人は……論外なり。
 夜は大森の咳と、ドイツ人のいびきがうるさくてろくに眠れません。
 朝起きると、四三は大森に注意されます。客室の外に出るときは、常に正装でなくてはならない。四三は朝起きてから寝るまで、ワイシャツ、ネクタイ、背広革靴で過ごし、窮屈な思いをします。弥彦は洗面所を独占し、毎朝三十分をかけて身支度をします。
 ハルビン駅で途中下車した四三と弥彦でしたが、ハルビンは不穏な空気が漂っています。二人は銃を担いだロシア兵に囲まれ、二人はパスポートを見せるように要求されます。
 汽車に乗り込むと、さっきまでロシア兵におびえていた弥彦は、女の子に声をかける始末。その軽薄な振る舞いに四三はあきれます。
 やることもなく四六時中顔を合わせている四三と弥彦の関係は、次第にギスギスしたものになっていきます。
 そのころ後の古今亭志ん生である美濃部孝蔵森山未來)は、師匠の橘屋円喬から言葉をかけられます。
「君はメシは好きか」
そして初めての給料を渡されるのです。それはほんのわずかな額でした。さらに名前を与えられます。
「お前さん今日から、三遊亭朝太だよ」
 噺家なんて水ものだ。のうのうと暮らせると思うな。食うことなんて後回しにして、芸の苦労をしなければならない。「メシは好きか」とは、そういう意味だったのです。それでも喜びを隠しきれない孝蔵でした。
 汽車で移動する四三と弥彦は、いちゃつく大森夫妻にいらだちを隠しきれません。大森の咳が気になる二人。実は大森は肺を患っていたのです。
 安仁子が嘉納に頼んでいたのでした。四年後はおそらく無理だ。これを逃したら一生オリンピックを見る夢は叶わない。どうか行かせてやってほしい、と。
 頼りないと四三たちが考えていた大森は、実際には大変な熱意を持った研究家でした。短距離法の練習法や、フォーム、足の運び方までを記した分厚い研究書を、嘉納に預けて出かけていたのでした。
 車中で大森の病状は重くなり、つてに安仁子は自炊の中止を申し出ます。
「こぎゃんこつで大丈夫でしょうか」
 ついに四三の不安といらだちは沸点に達します。監督はあんな状態で、嘉納もいない。弥彦は女の尻ばかり追いかけている。弥彦は四三を食堂車に誘います。
「考えても始まらん。走るのは僕たちだよ」
 と弥彦は言います。次第に打ち解ける二人、酒も入り、互いを認め合います。
 東京を出て十七日目。ついに一行は船に乗り、バルチック海をストックホルムに向かいます。
 ストックホルムに到着する一行、大使館の公使が出迎えます。四三が驚いたことに、ストックホルムの地では、子供から大人まで誰もがオリンピックを知っていました。その開催を心待ちにしています。
 そして四三と弥彦は無人のスタジアムに足を踏み入れます。ここを走るのだと二人は静かな闘志を燃やすのでした。