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大河ドラマウォッチ「麒麟がくる」 第九回 信長の失敗

 天文十八年(1549)。尾張との和議のあかしとして、帰蝶(川口春奈)は織田信秀(高橋克典)の嫡男、織田信長(染谷翔太)のもとに嫁ぎました。
 駿河では今川義元(片岡愛之助)が、尾張に攻め込む決意をしていました。竹千代(のちの徳川家康)の父である松平広忠(浅利陽介)は、義元から、すぐに岡崎に帰っていくさの支度をするように命じられました。
 しかし松平広忠は、帰路、何者かに襲われて命を落としてしまうのです。
 襲撃の後、通りかかった菊丸(岡村隆史)は、松平広忠の遺体を発見します。その脇差を持ち去るのです。
 三河刈谷城。そこで水野信元(竹千代の伯父)が脇差を確認します。於大の方(竹千代の母、弘忠の妻)も脇差を受け取ります。
「広忠殿を殺(あや)めたのは何者じゃ」
 水野信元は庭に控える菊丸にたずねます。
「恐れながら、織田の手のものではないかと存じ上げまする」菊丸は言います。「広忠様がお亡くなりになれば、そのあとをお継ぎになるのは竹千代様。いずれ三河一の大名となるべきお方を、織田方がおさえたことになりまする」
 竹千代の身を案じる信元。菊丸は言います。
「われらは竹千代様の影となり、命に代えてもお守りいたします」
 於大の方も菊丸に声を掛けます。
「そなたがたよりなのじゃ。竹千代を頼んだぞ」
 菊丸が去った後、信元は言います。
「織田の意図が分からぬ」
 尾張那古野城では、帰蝶が待たされていました。祝言を前にして、夫となるべき信長が行方知れずとなっていたのです。部屋に、ナタを腰に差し、泥に汚れた衣服をまとった、山にこもってでもいたような男が入り込んできます。男は帰蝶を見ていいます。
「嫁いでくるのは蝮(まむし)の娘と聞いていた。いかな蛇(へび)女かと思うたが、いらぬ心配だったようじゃ」男は足を投げ出します。「わしは織田三郎信長(染谷翔太)。この城のあるじじゃ」
 帰蝶は動揺しますが、毅然とした態度で信長にいいます。
「この帰蝶との祝言を放り出すとは、よほどの大事があったのでございましょうな」
 昨晩は化け物を探していた、と奇妙なことを信長はいいだします。怪訝な表情を隠そうともしない帰蝶。化け物のことで大騒ぎになっていた、と信長は話します。信長はその化け物の話を信じていたのではありませんでした。しかし村のものは心の底から化け物を恐れています。信長はそれを嘘だと言って放っておいてはならないと思いました。池の水をかい出させ、そこに信長は入って見せたのです。
「村のものと同じ心を持つことじゃ」信長はいいます。「わしが池に入って見せれば、皆が安心するであろう。村の者たちとはまた商売に出かけられる。田を作ることができる。それが大事じゃ。そう思わぬか」
 帰蝶の表情が和らぎます。
「されどそちには悪いことをした。すまぬことをした」
 信長は帰蝶に頭を下げるのでした。
 信長は帰蝶を連れ、末盛城にいる父の信秀に会いに行きます。信秀は上機嫌です。
「美濃とはいろいろあった。されどこれを機に、よろず水に流し、これからは仲よう手をたずさえていこうではないか」
 信長は父に、めでたい引き出物があるといいだします。一つの櫃(ひつ)も持ってこさせます。
「この尾張の繁栄には欠かせぬものにございます」
 信長の表情はにこやかです。信秀は櫃の中を見て表情を変えます。大きくため息をつき、女たちを下がらせます。信秀と信長は二人きりになります。
「何のつもりじゃ」信秀は問います。「これを見せればわしが喜ぶとでも思うたか。松平広忠の首など」
 信秀は立ち上がります。そして
「この、うつけが」
 と、信長の頭を扇子で叩くのです。信長は納得ができません。広忠は今川にすり寄り、尾張に攻め込もうとしていた。その広忠を亡きものとし、我らは先手をとった。今、竹千代を擁するわれらは、三河の主をおさえたも同然。
「物事には時機というものがある」信秀はいいます。「これで今川は明日にでも竹千代を穫りに来るぞ。今、戦こうて、勝てると思うか」
 信長は目に涙を浮かべます。
「わしは父上にほめてもらえると思って」
「愚か者」
 とだけ信秀はつぶやくのです。
 帰蝶は信長の母であり、信秀の妻である土田御前(壇れい)と話します。途中、部屋をのぞき、土田御前は信長の弟である信勝を帰蝶に紹介します。その信勝と将棋を行っていたのが竹千代でした。信勝に将棋で負けた様子の竹千代。
「人質の身で、愛想のない子じゃ」
 と、竹千代を評する土田御前。
 帰蝶は一人、金魚をながめる竹千代に話しかけます。竹千代は金魚について説明します。
「唐(から)より渡ってきたというが、こんなところでは金魚がかわいそうじゃ。国を遠く離れ、狭いところに閉じ込められ、わしとおなじじゃのう」
 竹千代は、将棋にわざと負けているのだと帰蝶に打ち明けます。
「せめて信長様がおられればのう」竹千代はいいます。「信長様は将棋が強い。信長様と指す将棋はおもしろい」
 そこへちょうど信長がやってきます。すがりつこうとする竹千代。どけ、と竹千代は怒鳴りつけられます。信長は帰蝶を連れて那古野城に帰るのです。
 那古野城に帰った信長は、鉄砲の試し撃ちをはじめます。信長は帰蝶にいいます。
「鉄砲は音(ね)が良い。この音を聞くと、気持ちがスッとなる」そして信長は帰蝶を誘うのです。「そなたも試してみるか」
「やりまする」
 と、目を輝かせる帰蝶。信長の指南にて、帰蝶は発砲します。
「かようなものとは」
 と、鉄砲に驚く帰蝶
「こりたか」
 と、信長にたずねられ、
「楽しゅうございます」
 と、帰蝶は返事をするのです。帰蝶は今日、信長が父と何かあったのかとたずねます。
「毎度のことじゃ。気にするほどのことではない」
 と、答える信長。
「信長様は、お父上がお嫌いですか」
 と、聞く帰蝶
「いや」と信長は首を振ります。「帰蝶は親父殿が好きか」
「はい」帰蝶は答えます。「時々大嫌いになるとき以外は」
 信長は笑います。
「わしも同じじゃ」
 この頃、美濃の地では、明智光秀長谷川博己)が家来の藤田伝吾(徳重聡)と共に米俵を運んでいました。妻木の館に米を持っていくよう、叔父の明智光安(西村まさ彦)に命じられたのです。光秀はそこで不思議な女性に出会います。
「戸を閉めて下さいませ。鬼に見つかってしまいます」
 彼女は子供たちとかくれんぼをしていたのです。彼女は花びらを入れたかごを持っていました。子供に見つかった時に、花吹雪を浴びせようというのでした。光秀は思い出します。自分も幼い頃、ここでかくれんぼをしていた。見つけた女の子に花吹雪を浴びた。光秀は女性がその時遊んだ、熙子(木村文乃)だということを思い出すのです。光秀は熙子に「大きくなったら、十兵衛のお嫁におなり」と、いっていたのでした。
 明智荘では、光安と光秀の母の牧(石川さゆり)が囲碁を打っていました。牧に問われ、光安は妻木氏に何と伝えたのかを打ち明けます。
「十兵衛もそろそろ、独り身ではさしつかえが出る頃である。聞けば、妻木殿の娘御、熙子殿もそういう年頃である由、よろしくお取りはからいいただければ幸いなり、と」囲碁を打ちながら光安はいいます。「わしもはよう十兵衛に身をかためてもらいたい。兄上が亡くなるとき、約束したのじゃ。十兵衛が身をかため、一家のあるじとなったとき、この明智荘をお返しする、と。わしはそれまで何としても、この城を守ってみせる。そして兄上がそうであったように、十兵衛にも立派な城主となってもらう。それまでもう一息じゃ。ようやく今日まで」光安は牧に向かいます。「約束したのじゃ。兄上と」
 そこへ光秀が帰ってくるのです。牧は訪ねます。妻木殿とはどのような話をしたのか。
「庭の話や、山の話を」
 一方、京では。望月東庵(堺正章)の助手として働く駒(門脇麦)でしたが、ぼんやりとして、心ここにあらずの様子をしていました。