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大河ドラマウォッチ「麒麟がくる」 第七回 帰蝶の願い

 天文十七年(1548年)。秋。
 尾張の古渡城では、織田信秀(高橋克典)が家臣の平手政秀(上杉祥三)と話していました。自分たちは三つの敵に囲まれている。駿河の今川、美濃の斎藤、そして織田彦五郎。彦五郎は同じ織田の一族ながら、嫉妬のためなのか、たびたび横やりを入れてきます。二つの敵ならば始末はつけられるが、三つは手にあまる。
「そこでじゃ」信秀はいいます。「わしは、美濃のマムシめと手を結ぼうかと思う」
 光秀(長谷川博己)が京から戻ってきました。駒(門脇麦)も一緒です。すると明智の館に、斎藤道三(この時は利政)(本木雅弘)の娘、帰蝶川口春奈)が訪ねてくるのです。
 光秀は叔父で明智家の当主である明智光安(西村まさ彦)と話をします。光安は、尾張織田信秀が使者をよこし、和議をしたいと申し入れてきたことを話します。喜ぶ光秀。しかし、と光安はいいます。信秀はこの和議に条件をつけてきた、帰蝶を嫁にくれと。道三はそのことを帰蝶に話した。帰蝶は拒絶し、道三と口をきかなくなった。光安は、帰蝶とはいとこ同士で幼い頃から親しい光秀に、
「そなたの口から帰蝶様のお気持ちを聞いてはくれぬか」
 と、頼みます。渋い顔をする光秀。
 結局、光秀は、帰蝶と話をすることにします。帰蝶は光秀がしゃべる前から、光安と話したのは自分を嫁にいかせることについてか、と聞いてきます。帰蝶は光秀との子供時代のことを話し始めます。
「一番親しい身内と思うているゆえ、約束を守った」帰蝶は光秀を振り返ります。「今度は私を守って欲しい。尾張などへ嫁には出してはならぬ、皆にそう申して欲しい」
 駒は光秀の母である牧(石川さゆり)と話していました。牧は、帰蝶の噂をする駒を叱りつけ、女はいつか、しかるべき人に嫁ぎ、子を産み、育てなければならない、と語ります。
「それができぬものはどうすればいいのでしょうか」駒はいいます。「想うても想いが遂げられぬものもありましょう。身分のこと、暮らし向きのこと、様々な訳があり、嫁ぐことが叶わぬものは」
 光秀は光安と共に稲葉山城に登ります。光安は光秀にクギを刺します。
「よいな、余計なことは申し上げるなよ。どこまでも帰蝶様のおおせになったことを、そのまま申し上げるのじゃ。そなたの意見など、一部たりとも入れてはいかん」
 道三の前に二人は出ます。光秀は道三に問われます。
「何でも思うところを申して見よ」
 光秀はその通り、話し始めるのです。
「織田へ嫁がれるということは、人質として行かれる意味もあろうかと。和議というものは互いの思惑により、破られることも多々でございます。再び戦となれば、まず始めに斬られるのは人質。そうすることが正しいのかどうか。情としてしのびない思いもございますゆえ」
「情としてしのびない」道三は光秀の言葉を繰り返します。「それは父親であるわしが最も感ずるところ。そなた以上にわしはつらいのじゃ。胸が張り裂けんばかりじゃ、わかるか十兵衛(光秀)。されどじゃ。その情を断ち切るだけの値うちがこの和議にあるかどうかであろう。そのことをわかっておるのかと問うているのじゃ」
 光秀はいいます。
「申し訳ございません。この十兵衛。和議の値うちをまだはかりかねております。それゆえ、帰蝶様にご納得いただくのは無理でございます」
「無理じゃと」
 と、すごむ道三。
「できませぬ」
 と、光秀は即答します。道三は怒り出します。
「用はない。帰れ」
「わかりました」光秀も大声を出します。「帰ります」
 光秀は道三のもとを立ち去っていくのです。怒る道三は残った光安に命じます。
「十兵衛を呼び戻せ」
 道三と光秀は二人きりで話すことになります。道三の声は意外にも穏やかです。
「わしの父親は、若い頃、油や紙を売り歩く商人だったが、よく申していた。海のある国は食うに困らぬ。海には魚がいる。港をつくれば船が来る。船は材木や織物や諸国の品々を山のように積んできて、それを売る市がたつ。市がたてば商人が集まり、金が動く。そこから大きな利が生まれる。尾張はそういう国じゃと。この美濃には海がない」道三は光秀に向き直ります。「苦労して田を作り、畑を耕す。その一年分の稼ぎを、海の恵みはあっという間に越えていく。国を豊かにするなら、海を手に入れることじゃ。あの尾張の向こうには海がある。我らはそこへ行くため、いくさをしてきたようなものじゃ。その尾張が、手を差し出してきた。和議を結べば、海が近うなる。わしの仕事はいくさをすることではない。国を豊かにすることじゃ。豊かであれば、国は一つになる。一滴の血も流さず、豊になる、それがこたびの和議じゃ」
 帰蝶にその話をしてくれないか、と道三は光秀にいいます。一度、嫌といったら動かない娘だ。自分の手には負えない。光秀とはうまがあうと皆がいっている。
 光秀は道三と別れ、館に帰ろうとします。しかし道三の側室の子である斎藤高政(伊藤英明)に呼ばれます。
 高政のところには、男たちが集まっていました。高政はいいます。
尾張との和議などもってのほか。帰蝶を嫁に行かすのも言語道断じゃ」高政はいいます。「ここには美濃を支えてきた国衆がそろうておる。国衆は代々土岐家を守護と仰ぎ、土岐家と共に他国と戦こうてきた。父上はその国衆を軽んじ、長年の敵を利する、愚かな和議を結ぼうとしておる」
 高政は、帰蝶を嫁に行かせてはならぬといい、光秀に杯を握らせ、そこに酒を注ぐのです。光秀はそれを飲んでしまいます。
 明智の館に帰る光秀。帰蝶と対面します。
「旅をしてみたい」帰蝶はいいます。「船に乗り、海を渡る。十兵衛、供をせよ」
 それを冗談と受け取り、微笑む光秀。光秀は話そうとします。それをさえぎる帰蝶
「見てきてくれぬか。その信長という男」帰蝶はまっすぐに光秀を見つめます。「十兵衛の目で見て、いかなる男か教えてもらいたい」
 光秀は商人に変装し、尾張領の熱田に向かいます。信長についての情報を集めようとしますが、うまくいきません。海に面する市場である熱田の活気を見、光秀は道三の言葉を思い出します。
「この美濃には海がない。国を豊にするなら、海を手に入れることじゃ」
 そして光秀は、因縁浅からぬ農民の菊丸(岡村隆史)と出会うのです。そして菊丸から、信長が毎日、海に漁に出ていて、明け方に戻ってくることを聞くのです。
 明け方の海で待つ光秀。信長を乗せた小舟がやってきます。