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大河ドラマウォッチ「麒麟がくる」 第十回 ひとりぼっちの若君

 天文十八年(1546)、夏。京に望月東庵(堺正章)と共にいる駒(門脇麦)は、心ここにあらずの様子をしていました。そんな駒が伊呂波太夫尾野真千子)の率いる、旅芸人の一座を見つけるのです。駒は台に張られた綱を見つめます。そこで見事な綱渡りを行ってみせます。駒は東庵と共にいる伊呂波太夫を見つけます。
「お駒ちゃん」
 と、気さくに声を掛ける伊呂波太夫太夫と駒は抱き合います。
「すっかり見違えました」
 という太夫
 東庵の庵で、太夫と東庵は話していました。駒がお茶を運んできます。駒が東庵と美濃にいっていたことを話すと、
「美濃に、明智十兵衛という若い家臣がいるそうですけど、お会いになりました」
 と、大夫は東庵に問うのです。あっけにとられる駒。大夫は続けます。
三好長慶様の御側近の松永様って方がおっしゃっていましたよ」
太夫松永久秀様を存じておるのか」
 松永は大夫の一座を何度も見に来ていたというのです。
「今、この都を動かしているのがあのお方だ」
 そういう東庵に、あまり関心のなさそうな返事をする大夫。東庵は駒に話しかけます。
「駒、太夫はこういうお人だ。恐ろしく顔が広い。滅多なことはしゃべれぬぞ」
 駒が去ったあと、東庵は大夫にいいます。
「このところどうも元気がない」
「お駒ちゃん」
 と、確認する大夫。東庵はうなずきます。
「美濃から帰ってきて、ずっとあの調子だ。何を聞いても生返事でな」
 駒は大夫に誘われ、団子屋に来ていました。大夫は駒が一座にいたときのことを話し始めます。大夫の母が、駒のことを妹だと思うように、と言い聞かせたというのです。大夫は東庵が駒のことを心配していたと話します。
「好きなお方が、遠くへ。ずっと遠くへ」
 と、駒は打ち明けます。
「手の届かぬお方だったのね」
 駒は家が焼けたときに助けてくれた侍が、美濃の人だったことがわかったと報告します。大夫はその侍の紋が桔梗だったことを駒に教えます。あっけにとられる駒。いてもたってもいられなくなった駒は、東庵の庵に走って帰ります。光秀の家から帰るときに、土産にもらってきた扇子を広げてみます。そこにははっきりと桔梗の紋が描かれていたのです。
 その年の末に、三河でいくさが起きました。尾張との国境にある安城城(あんじょうじょう)に、今川軍が攻め寄せてきたのです。城は落ち、守っていた織田信広が捕えられてしまいます。信広は信長の、腹違いの兄でした。
 美濃の地では、明智光秀長谷川博己)が叔父の明智光安(西村まさ彦)と共に、稲葉山城に呼び出されていました。織田信広が捕えられたことについて、思うところを述べよ、と斎藤道三(この時は利政)(本木雅弘)命じられたのです。
 道三はやってきた二人に話します。今川義元が、捕えた織田信広と、織田方の人質である松平竹千代交換したいと伝えてきた。このことは巡り巡って、美濃にも波が及んでくる。松平竹千代はまだ幼いが、三河松平家を継ぐ者。これを今川に渡せば、三河は全土を今川に支配されたも同然。そうなれば、三河の隣国尾張は、虎のそばで暮らす猫のようなものだ。我らはその猫と盟約を結んだ国だ。猫を守るため、虎と戦うことになる。織田信秀が息子の信秀を助けるために竹千代を今川に渡すようなら、われらは盟約を考え直さなければならない。
「そう思わぬか、十兵衛」
 光秀は道三に意見を求められます。光秀はいいます。
「信秀殿が、我が子を見殺しにいたしましょうか」
「見殺しにできるようなら、信秀殿はまだ見所がある」道三は命じます。「十兵衛。尾張に行き、成り行きを見て参れ」
 その頃、尾張の末盛城では、織田信長染谷将太)が父の織田信秀高橋克典)に食ってかかっていました。
「人質の取り交わしなど同意できませぬ。竹千代殿は三河のあるじとなる若君。それを今川に渡すなどと、尾張の命運に関わりまする」
 信秀はいいます。
「信広は腹違いなれどそなたの兄ぞ。みすみす見殺しにはできぬ」
 信長は興奮しています。
「兄上はいくさ下手ゆえ捕えられたのじゃ。自業自得ではありませぬか。捕えられる前に腹を切るべきであった」信長は腹から声を出します。「この信長、竹千代殿をわが城に留め、何人(なんぴと)にも渡しませぬゆえそのおつもりで」
 信長は座を立ち、去って行きます。その様子を見ていた信秀の妻である土田御前(壇れい)はいいます。
「家を継がせるのは弟の信勝の方がよろしいと。信勝は、まこと心の広い、賢い子ですよ」
 信秀は言い聞かせるように語ります。
「わしの父、信定はようおおせられた。物事には天の与えた順序というものがある。それを変えれば、必ず無理が生じ、よからぬことが起きるとな。そなたから生まれた最初の子は信長じゃ。家を継ぐのは信長。わずかな器量の善し悪しで、その順序を変えられん」
 熱田に光秀は到着していました。同盟を結んだ今は、変装をせず侍の姿のままです。眠り込む菊丸(岡村隆史)を見つけます。菊丸の売る味噌を那古野城に届ける名目で、帰蝶を訪ねようとするのです。菊丸は馬に味噌をくくりつけ、光秀と共に那古野城に向かいます。道中、菊丸は竹千代の話を始めます。
「気になるのか」
 と、問う光秀。
「それは、わしは三河の者ですから。今の三河は今川様に押さえつけられて、何をされてもじっと我慢です。いわれるがまま従うほかないのです。せめて竹千代様だけでもご無事でいていただかねば。わしらのお殿様ですから」
 光秀は立ち止まって聞きます。
「おぬしらとしては、竹千代様が今川に渡されるより、織田方に残る方が良いのか」
 しばし間を開けて菊丸は答えます。
「正直に申しますと、どちらでも良いのです。今は、じっと我慢をされ、行く末、三河に戻られ、どこからも指図されない、立派な国をつくっていただければ、それで良いのです。それがわしらの望みです」
 光秀は那古野城に到着します。帰蝶と対面します。そこへ信長が帰ってくるのです。鉄砲でイノシシを仕留め、持って帰ってきました。その姿は猟師そのものです。鉄砲にくわしい光秀に、信長は興味を持った様子でした。茶を飲んでいけと告げます。
 信長は着替えて光秀の前に姿を現します。信長は自分が母親に気に入られていなかったことを話します。母は自分に似た色白の弟の信勝に目を掛けていた。母親に喜んでもらおうと、信長は漁に出るようになった。しかし魚を捕ってきて母が喜んだのは一度きりだ。母は信勝に家を継がせたかった。それでも信長は漁をやめなかった。見事な魚を捕ると漁師たちがほめてくれる。その魚を皆に分けてやると大喜びする。それが楽しい。皆が喜ぶのが楽しい。
 話をしているさなかに、竹千代が将棋の道具を持って信長の前にやってきます。しかし信長は将棋をすることを断るのです。これからもやらないと宣言します。竹千代がいいます。
「近習の者が申しておりました。信長様が、私の父、松平広忠を討ち果たしたと。そのことで、私にお気遣いしておられるのですか。もしそうなら、それは無用なことでございます。父上は母上を離縁し、岡崎から追い払い、今川義元についたのです。私は大嫌いでした。それゆえ、討ち果たされたのはいたしかたないことと思うています」
「わかった、駒を並べよ」
 信長は竹千代と将棋を始めるのです。信長にいわれ、座を外す光秀と帰蝶。二人が将棋をする様子を、天井裏からうかがう者がいました。信長は竹千代に、兄の信広と竹千代を交換しようとする動きがあることを打ち明けます。自分は竹千代を今川に行かせたくないと思っている。しかし迷いはある。この話を潰せば、兄は斬られる。竹千代は毅然としていいます。
「今川は敵です。いずれ討つべきと思うております。しかしその敵の顔を見たことがありません。懐には入り、見てみたいと思いまする。敵を討つには、敵を知れと申します。信長様がお迷いなら、私はどちらでもかまいませぬ」
 天井から見ていた人物は、光秀と共にやってきた菊丸でした。