日本歴史時代作家協会 公式ブログ

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大河ドラマウォッチ「青天を衝け」 第3回 栄一、仕事はじめ

 血洗島の渋沢家には、大勢の職人が集まっていました。藍の「すくも」」作りが始まったのです。乾燥させた藍の葉を、水を打ちながら混ぜ合わせ、発酵させます。これを何度も繰り返します。発酵を初めておよそ百日。「すくも」ができあがります。この「すくも」を液状にすると、美しい青を出す染料になるのです。

 渋沢栄一吉沢亮)は、いとこの渋沢喜作(高良健吾)と話します。

「うちのとっつぁまはなあ、この武州で作る藍を、阿波の藍に負けねえ品にしようと思っている」

 そして栄一は、もうすぐ父に江戸に連れて行ってもらうことを話すのです。

 アヘン戦争で清国が攻められる様子を描いた書物を、栄一のいとこである尾高惇忠(田辺誠一)が読んでいました。これは当時の日本人に強い危機感を与えました。

 栄一は父の市郎右衛門と共に、江戸に到着していました。

「とっさま、江戸は京が祭りか」

 と問う栄一。市郎右衛門は笑って答えます。

「何をいう。江戸ではこれが常だ」

 この頃、江戸は世界最大級の都市。百万人近くい人口を抱えていました。栄一は驚き、はしゃぎ、江戸の通りを走り抜けるのでした。栄一は市郎右衛門にいいます。

「とっさま、俺は嬉しい。この街は、商いでできてる。ものを作るもんも、運ぶもんも、売るもんも、それを買ってるもんも皆が皆つながって、生き生きとしとる。見ない。お武家様がまるで脇役だ」

「しっ、声が大きい」

「こんな誉(ほま)れはねえ。この江戸の街は、とっさまみてえな商(あきな)い人が造ってるんだいな」

 一人の侍が栄一に近づいてきます。

「おっと、聞き捨てならねえな、そこの小僧。聞こえたぜ。イナカッペの声がよ。この江戸の街は商人(あきんど)が造ってるとかなんとかぬかしやがって」

 父に促され、栄一たちは逃げ出します。侍は追おうとしますが、妻に引き止められます。ホントのことじゃないか、とさえいわれます。

「商人ばかりが景気が良くって、お前さんみたいなお武家様がすっからかん。おかげさまで一緒になったあたしまでこんななりになっちまってさ。あーあ、いつになったらまた、きれいなおべべが着られるようになるのやら」

「ちげえねえ」

 と侍はあっさり認め、笑い出すのです。この侍は平岡円四郎(堤真一)といい、やがて栄一と徳川慶喜を結びつけることになるのです。

 栄一親子は神田の紺屋町にやって来ました。ここが藍の商いの中心地です。市郎右衛門が藍に染められた布を見て栄一にいいます。

「どれも一級品だ。ここに来りゃあ、染め物の、はやりすたりがひとめで分からい」

 父と子は建物に入っていきます。市郎右衛門は店の番頭に紙に染めた見本を見せます。

「これはいい色だね」

 と番頭は声を出しますが、大店(おおだな)は阿波の藍しか買わないとも語ります。

「これからは、武州藍もどうかひとつ、頼まいね」

 と、市郎左衛門は頭を下げるのでした。

 その頃、江戸城では、寝たきりになった将軍徳川家慶(いえよし)(吉幾三)徳川慶喜(草彅剛)が見舞っていました。家慶は無理に起き上がります。

「世の中には、私よりも、そなたの父が優れた君主だと陰口をたたく者もおった。それゆえ私は、斉昭(なりあき)が嫌いだった。だが今、こうしてそなたの顔を見ていると、悪い男ではなかったのかもしれぬと思えてくるから不思議じゃ」

 その三ヶ月後、血洗村に瓦版売りがやって来ます。そこにはペリーの黒船がやって来た様子が描かれていたのです。喜作はそれを持って剣のけいこをしているや栄一たちもとにやって来ます。瓦版は尾高惇忠に渡されます。

「水戸様が案じていたとおり、やはり日の本は太平の夢をむさぼっていることなどできなかったのだ」惇忠は弟の長七郎に本を渡します。「これを読め。清国が夷狄に乗っ取られたさまがつぶさに書かれておる」

「日の本も、清国のようになんのか」

「それはならねえ。今こそ、人心を一つにして戦わねえと」

 江戸の街を大砲の列が進みます。これは徳川斉昭(竹中直人)が幕府に献上した大砲でした。斉昭は、外国船を打ち払うことを強硬に主張していました。

 幕府老中の阿部正弘(大谷亮平)が語ります。

「黒船におびえていた江戸の庶民は、さすがは水戸様と狂喜乱舞しておりまする」

 横になっている将軍家慶がいいます。

「斉昭と協議すべし。この国難。水戸の斉昭に力を借りるのじゃ。慶喜

「はい、ここに」

 家慶が布団から手を出します。慶喜はそれを握ります。

「徳川を、頼む」

 しかし家慶のその言葉に、慶喜が応えることはありませんでした。

 その十日後、将軍徳川家慶は亡くなります。幕府では、将軍の後継ぎである家祥(いえさち)のもと、次にペリーが来た時にどう対応すべきか、大名や、幕府有志にまで登城を命じ、広く意見を求めました。

 幕府は、徳川斉昭の隠居処分を解き「海防参与」という役目を与えました。

 こうした攘夷の動きは、栄一が住む武蔵国(むさしのくに)にも及びました。砲術家高島秋帆(玉木宏)が牢から出されたのです。栄一は姿を整え、騎乗した秋帆を目撃します。栄一は思わず秋帆に駆け寄るのです。

「確か前に、この国は終わると。誰かが国を守らねばって」

「そうか、お前か」

 と、秋帆は馬を降ります。

「私はあの夜、お前の言葉に力をもらった」

 幼い栄一は、牢にいる秋帆にいっていたのです。

「俺が守ってやんべえ。この国を」

 秋帆は栄一の前にかがみます。

「そしてどうにかここまで生き延びた。私はこの先、残された時をすべてこの日の本のために尽くし、励みたいと思っている。お前も励め。必ず励め。頼んだぞ」

 幕府の保守派によって冤罪をこうむり、投獄されていた長崎の砲術家高島秋帆は、釈放されたのでした。

 栄一は畑で騒ぎが起っている様子を聞きつけます。藍の葉の多くが虫にやられていたのです。市郎右衛門は冷静に指示を出します。

「とにかく急いで、無事な藍葉を刈り取れ。少しでも早く残ったものを刈り集めんだ」

 栄一はこれからどうするのかと市郎右衛門に質問します。

「信州や上州へ行って買ってくるしかねえが、今から行って、どんだけ買えるもんか」

「だったら俺も行くべ。二人がかりで行けば」

「馬鹿もん。目え利くもんが、いい藍葉買ってきねえと、意味がねえ。子供の使いでできるこっちゃねえ」

 市郎右衛門は雨の中、一人で出かけていくのでした。

 一方、徳川慶喜は父の斉昭に話していました。

「当てにされても困るのです。私にはこの先、将軍になる望みはございません」慶喜は続けます。「父上は私を傀儡(かいらい)とし、ご自身が将軍になられたいのでありましょう」

 慶喜は斉昭の前から去るのでした。

「誰か、あやつを側(そば)で支える、直言(ちょくげん)の臣(しん)はおらんのか」

 と、斉昭はつぶやきます。

 栄一は母のゑい(和久井映見)に頭を下げていました。

「頼む、かっさま。俺を信州に行かせてくれ。俺が藍葉を買い付けてくる」栄一は顔を上げます。「俺にも藍の善し悪しは分かる。ちいせえ頃から、とっさまの買い付けをずっとこの目で見てきた。藍を買ってる時のとっさまは、まっさか立派で、俺もいつかああなりてえってずうっと思って側で見てきたんだ。俺はとっさまの役に立ちてえんだ。とっさまのために、この村のために励んでみてえんだ」

 ゑいは部屋の奥に姿を消します。やがて銭の入った漆の箱を持ってくるのです。ゑいは栄一に巾着袋を渡していいます。

「行っといで。このかっさまの胸ん中が、お前を行かせてみろ、行かせてみろ、っていうてるに。行っといで。決して無駄にしたらいけねえよ」

 こうして栄一は信州の村にやってくるのです。最初は相手にもされない栄一でしたが、その確かな目利きに村人は気付き始めます。栄一のいる場所に藍葉を持って人々が集まってくるのです。そろばんをはじき、的確な判断で栄一は藍葉を買い取っていきます。しかし厳しい評価ばかりではありません。来年に肥料を買って、もっと良いものを作るとの期待のもと、高い値をつける場合もありました。

 栄一が藍葉を買って帰ってきます。市郎右衛門は難しい顔で栄一の藍を確かめます。そしていうのです。

「よくやった」

 そして栄一に、明日から、一緒に買い付けに行くことを確認するのです。喜びのあまり栄一は大声を上げて走り出します。

 江戸の平岡円四郎のもとを、斉昭の家臣が訪れていました。慶喜の小姓になれというのです。円四郎は断ります。家臣は怒り出すのです。

「わしもそう申し上げた。かように無礼で粗野な男に、小姓など務まるものかと。しかし、それをご承知でなお、水戸のご老公はおぬしが良いと仰せじゃ。一度拝謁いたしてみるがよい」