大河ドラマウォッチ「青天を衝け」 第6回 栄一、胸騒ぎ
尾高の家の千代(橋本愛)が渋沢栄一(吉沢亮)のいる中の家(なかんち)に手伝いにやって来ていました。栄一は道場でしごかれて帰って来ます。荷物を運んで二人きりになったとき、栄一は千代にいいます。
「剣筋はいいといわれたに。今日だって伝蔵に一発、食らわしたし。でも、長七郎(真島真之介)なんかはこう『叩き斬ってきってやる』っていう気迫がすげえ。どうも俺のは『よいしょ』。土掘ってる気合いになっちまうんだいなあ」
それを聞いて千代が笑うのです。栄一は慌てていいます。
「いや違うで。俺とてその場になれば、人なんて叩き斬って」
「いえ、違うんです」千代は立ち上がります。「千代はそんな栄一さんをお慕い申しておるんだに」
いってしまってから恥ずかしくなって、千代は逃げていくのでした。
江戸の水戸藩邸では、徳川斉昭(竹中直人)が妻の吉子(原日出子)に呼びかけられます。息子の徳川慶喜(草彅剛)が結婚することになったのです。
その慶喜は小姓の平岡円四郎(堤真一)に髪を結わせていました。
「私は徳川の飾り物ゆえ、見栄えも大事だ」
と、慶喜は述べます。円四郎はいいます。あなた様は飾り物には向かない。馬の扱いも弓も一級で、銃や大筒にも詳しい。自分は慶喜をこの時代に潜む、武士のモグラと見ている。
「水戸のご老公のみならず、この日の本の皆の憂いが消え、お亡くなりになった東湖先生の御霊(みたま)も喜ぶ方法が、一つだけございます」円史郎はもったいぶります。「あなた様が次の公方様になっちまうことです」
「お前までそんなことを」
「まあ小姓の戯言(ざれごと)、お聞き流しを。あたしはあなた様にほれ込んでますんで」
数日後、先の将軍や、父の斉昭のすすめで、慶喜の嫁に迎えられたのは、公家の姫である美香君(みかぎみ)(川栄李奈)でした。
「勤めがあるのでこれで」
と、対面が終わると、慶喜はすぐに席を立ってしまうのでした。
江戸の薩摩藩邸には、もう一人の姫がやってきます。篤君(上白石萌音)、後の天璋院です。松平慶栄(要潤)がいいます。
「篤君が嫁がれる公方様は、御歳三十を越えても体か弱く、お世継ぎをこしらえるどころか、城の畑でとれた芋やカボチャで、菓子をおこしえになっておられる」
篤君は公方様や徳川のためにも、丈夫な世継ぎを産んで見せる、といいます。
「いや、それよりも」と松平慶永は話します。「国のためなら一刻も早く、一橋様が公方様のお世継ぎになることが肝要じゃ」
「そうだ篤。そしてわれら薩摩や、日の本中の諸侯が、その一橋様の政(まつりごと)を支えるのだ。篤には大奥からその後押しをしてほしい」
篤君は驚きますが、
「承知いたしました」
と、返事をするのです。
福井藩士の橋本佐内(小池徹平)が円四郎と話をします。慶喜がどれほど将軍にふさわしいか、身の回りのことを教えてほしいというのです。
嫁入りしたばかりの美賀君は、一橋家の未亡人である徳信院(美村里江)と慶喜との恋仲を疑っていました。慶喜に食って掛かります。
港を開いた下田では、アメリカ合衆国の代表として、タウンゼント・ハリスがやってきます。通商の条約を結ぶまで、下田に居座るつもりのようでした。
江戸城では勘定奉行の川路聖謨(としあきら)(平田満)が、老中の阿部正弘(伊勢守)(大谷亮兵)と話していました。通商は損ばかりではなく、我が国を富ませる見込みがあると主張します。
「あいわかった」と、阿部は返事をします。「その時が来たのかもしれぬ」
しかし阿部が斉昭にそれを話すと、
「ならん」と怒鳴りつけられます。「断じてこれ以上、国を開いてはならん」
阿部が発言しようとしても、斉昭は受け付けません。即刻、朝廷に報告しなければならないといいます。
「今こそ天子様のお力で、我が国を一つにまとめ、断固戦うのみ」
血洗島に戻ってきた栄一は、道場破りがやってきたことを聞きます。栄一は急いで駆けつけます。来ていたのは北辰一刀流の門人である真田範之助(板橋駿谷)という者でした。まず範之助に挑んだのは、栄一のいとこの喜作(高良健吾)でした。しかし一撃で突き飛ばされます。次に栄一が挑みます。木刀を捨てて体当たりを仕掛けますが、柔術の技で投げ飛ばされ、腕を極められます。最後に尾高家の長七郎(満島真之介)が進み出ます。範之助は長七郎の名を知っていました。
「北武蔵野天狗とは、お前のことか」
長七郎はうなずき、構えを取ります。戦いは互角でしたが、長七郎が相手の木刀をたたき折る技を見せます。夜、範之助を囲んで、一同は酒を飲みます。
「こんな素晴らしい男たちが、この地におったとはのう」
と、範之助も上機嫌です。そして栄一たちは範之助から、日の本の神を仰ぎ、夷狄を討つという意味の「尊皇攘夷」という言葉を聞くのでした。そこに千代が酒を持ってやって来ます。範之助が千代に見とれるのです。尾高惇忠(田辺誠一)がいいます。
「お千代は、俺ら尾高の大事な妹だね。長七郎に剣で勝った者にしか、やれねえな」
年が明け、安政四年(1857)となります。斉昭は慶喜とその兄の慶篤に庭を見せます。
「天子様のおあす京はあちらだ」
斉昭がその方向に手を合わせ、息子二人も同様にします。斉昭は語ります。
「これは、義光(徳川光圀)以来、代々引き継ぐ、我が水戸家の掟である。我らは三家、御三卿として、徳川の政(まつりごと)を助けるのは当然のこと。しかし、もし万が一、何かが起り、朝廷と徳川が敵対することがあったときに、徳川宗家に背くことはあっても、決して、決して、天子様に向かって弓を引くようなことはあってはならん。ゆめゆめ忘れることのなきよう」
兄弟は斉昭に向かって頭を下げるのでした。
「父は老いました。近頃は胸の痛みもひどいようです。もし辞職願が出されましたら、お受けいただきたくお願い申し上げます」慶喜は気がつきます。「伊勢守殿も、お顔の色が優れませんな」
「ハリスの出府を認めたゆえ、その応対に追われております。そんな中、薩摩殿や越前殿からは、誰か様を一刻も早く将軍の後継にと矢の催促です」
「阿呆らしい。その誰か様は、全く威厳などありません。たいしたお勤めもなく、近いうちに遠くまで馬でも走らせようかと考えております」
「私は誰か様と共に一度、ご公儀で働いてみたかった気もします」阿部は庭をながめます。「この国は変わろうとしている。お父君や我らの世が終わり、新しい世が始まろうとしているのです」
血洗村では、長七郎が江戸に出ようとしていました。先日来た範之助に、その腕は田舎で眠らせるのはもったいないと、武者修行を勧められたのでした。喜作が長七郎に話しかけていました。
「江戸から戻ったら俺と勝負してくれ。江戸から戻ればお前はきっと、もっと強くなってるだんべ。それでも俺は、お前に勝たなきゃなんねえんだ。お前に勝って、お千代を嫁にもらいてえ」
そこに通りかかった栄一は声をあげるのでした。
栄一は商売のために山道を歩いていました。立ちションを始めるのです。そこへ慶喜の一行が馬で通りかかります。お付きの者が慌てますが、慶喜は
「構わぬ」
と、馬を降ります。栄一の隣で小便を始めるのでした。